コンクリート診断士【ASR】

コンクリート診断士

コンクリートの劣化の原因で、「ASR」って何?

ASR(Alkali-Silica Reaction)は、コンクリート中のアルカリ成分と反応性シリカを含む骨材が化学反応を起こし、膨張性のゲルを生成する現象です。このゲルが水を吸収して膨張することで、コンクリートにひび割れや劣化を引き起こします。

ASR(アルカリシリカ反応)とは?

ASRのメカニズム

  1. アルカリ成分の供給
  • コンクリート中のアルカリ成分(主にナトリウムイオンとカリウムイオン)が水分と反応して、アルカリ性の溶液を形成します。
  1. 反応性シリカの存在
  • 反応性シリカを含む骨材がコンクリート内に存在します。このシリカは、アルカリ性環境下で化学反応を起こしやすい特性を持ちます。
  1. 化学反応
  • アルカリ性溶液と反応性シリカが反応して膨張性のゲルを生成します。このゲルは多孔質で、水を吸収しやすいです。
  1. 膨張とひび割れ
  • ゲルが水を吸収して膨張し、コンクリート内部に圧力をかけます。この圧力により、コンクリートにひび割れが発生します。

コンクリート中のアルカリ成分」って何?

アルカリ性の事?

コンクリートの「アルカリ成分」と「アルカリ性」は異なる概念です。以下にそれぞれの違いを説明します。

アルカリ成分(Alkaline Components)
  • 定義:コンクリートに含まれる具体的なアルカリ性物質、特にナトリウム(Na)とカリウム(K)の化合物(Na₂O、K₂O)を指します。
  • 原因:これらのアルカリ成分は、セメント、骨材、混和材に含まれるナトリウムおよびカリウム化合物に由来します。
  • 役割:高いアルカリ成分は、ASR(アルカリシリカ反応)のリスクを増大させる要因となります。特に、コンクリート中のアルカリ成分の濃度が高い場合、反応性シリカを含む骨材と化学反応を起こし、膨張性のゲルを生成します。
アルカリ性(Alkalinity)
  • 定義:溶液のpH値が7より大きい状態を指します。コンクリートのアルカリ性は、そのpH値が高いことを意味します。
  • 原因:コンクリートのアルカリ性は、主にセメントの水和反応によって生成される水酸化カルシウム(Ca(OH)₂)などのアルカリ性物質によって引き起こされます。
  • 役割:アルカリ性の環境は、鉄筋コンクリートの鉄筋を保護する不働態被膜を形成するため、鉄筋の腐食を防ぐ役割を持ちます。通常、コンクリートのpH値は12〜13の範囲です。

アルカリ成分が多いと、必ずASRが発生するの?

アルカリ成分が多いと、必ずしもASR(アルカリシリカ反応)が起きるわけではありません。ASRが発生するためには、いくつかの条件が揃う必要があります。以下に、ASRが発生するための主要な条件を説明します。

ASRが発生するための条件

  1. 高いアルカリ含有量
  • コンクリート中のセメントやその他の材料に高いアルカリ成分(ナトリウムおよびカリウム化合物)が含まれていること。
  • アルカリ含有量が高いと、コンクリート内部でアルカリ性溶液が生成されやすくなり、ASRのリスクが高まります。
  1. 反応性シリカを含む骨材
  • 使用される骨材が反応性シリカを含むこと。反応性シリカを含む骨材は、アルカリ性溶液と化学反応を起こしやすいです。
  • 反応性の高い骨材には、オパール、クリストバライト、トリダイマイト、チャート、シリスシャールなどがあります。
  1. 十分な水分供給
  • ASRは湿潤環境下で進行しやすいため、コンクリート内に十分な水分が供給されること。
  • コンクリートが常に湿潤状態にあると、膨張性のゲルが水を吸収して膨張し、ひび割れを引き起こします。

反応性シリカを含む骨材」って何?

反応性シリカを含む骨材とは?

「反応性シリカを含む骨材」とは、コンクリート中でアルカリシリカ反応(ASR)を引き起こす可能性のあるシリカ成分を含む骨材のことです。これらの骨材は、アルカリ性環境下で化学反応を起こしやすく、ASRによる膨張とひび割れの原因となります。以下は、代表的な反応性シリカを含む骨材です。

  1. オパール(Opal):非晶質(アモルファス)シリカで、非常に高い反応性を持ちます。
  2. クリストバライト(Cristobalite):高温条件下で形成される多形の一種で、高い反応性を持ちます。
  3. トリダイマイト(Tridymite):高温条件下で形成される多形の一種で、高い反応性を持ちます。
  4. チャート(Chert):微細な結晶シリカを含む堆積岩で、中程度から高い反応性を持ちます。

非反応性シリカ

非反応性シリカは、アルカリ環境でも化学反応を起こしにくいシリカです。これらのシリカを含む骨材は、ASRのリスクが低くなります。以下は、代表的な非反応性シリカを含む骨材です。

  1. 石英(Quartz):結晶性シリカで、非常に安定しており、反応性が低いです。
  2. 火成岩(Graniteなど):石英や長石などの鉱物を含み、反応性が低いです。

そもそも「シリカ」って何?

シリカ(Silica)とは?

シリカ(Silica)は、二酸化ケイ素(SiO₂)のことで、地球上で最も豊富に存在する鉱物の一つです。シリカはさまざまな形態で存在し、自然界では岩石、砂、土壌などに広く分布しています。シリカは、結晶質(クリスタル)と非結晶質(アモルファス)の両方の形態で存在します。それぞれの形態には異なる物理的・化学的特性があり、建設材料としての利用方法や反応性も異なります。

シリカの用途

シリカは、その安定性と多様な形態から、さまざまな産業分野で広く利用されています。

  1. 建設材料
  • 砂や砂岩、砕石などの形でコンクリートやモルタルの骨材として使用されます。
  • シリカフュームはコンクリートの強度向上に利用されます。
  1. ガラス製造
  • 高純度の石英砂はガラスの主原料として使用されます。
  1. 半導体産業
  • 高純度シリカはシリコンウエハーの製造に不可欠です。
  1. 化学工業
  • シリカゲルは乾燥剤や吸着材として使用されます。

つまり、コンクリートのアルカリ成分が多くて、骨材に反応性シリカが含まれると、ASRが発生するって事?

はい、その通りです。コンクリートのアルカリ成分が多く、骨材に反応性シリカが含まれている場合、ASR(アルカリシリカ反応)が発生する可能性が高くなります。アルカリ成分と反応性シリカの化学反応により、膨張性のゲル(アルカリシリカゲル)が生成されます。

このゲルが水を吸収して膨張することで、コンクリート内部に圧力が生じます。この圧力がコンクリートにひび割れや劣化を引き起こします。

ASRの発生条件としては、高いアルカリ含有量、反応性シリカを含む骨材、十分な水分供給の3つが揃うことが必要です。これらの条件が全て揃うと、ASRが発生するリスクが高まります。


ASRのひび割れの特徴は?

ASR(アルカリシリカ反応)によるひび割れは、他の種類のひび割れとは異なる特有のパターンや特徴を持っています。以下に、ASRによるひび割れの主な特徴を説明します。

ASRによるひび割れの特徴

  1. 亀甲状のひび割れ
  • 説明:コンクリート表面に亀甲状や格子状のひび割れが発生します。これらのひび割れはランダムに交差し、細かいクラックパターンを形成します。
  • 原因:ASRの進行に伴い、膨張性ゲルが生成され、内部応力が様々な方向に分散されるためです。
  1. ひび割れ幅の変化
  • 説明:ひび割れの幅が一定ではなく、場所によって変化することがあります。特に湿潤状態や温度変化によって幅が変動することがあります。
  • 原因:膨張性ゲルの吸水や乾燥による収縮・膨張の繰り返しにより、ひび割れ幅が変化します。
  1. 白色のゲル状物質の析出
  • 説明:ひび割れ部分やその周囲に白色のゲル状物質が析出することがあります。
  • 原因:ASRによる反応生成物である膨張性ゲルが水分と反応し、表面に析出するためです。
  1. 表面の変色
  • 説明:ひび割れ周辺のコンクリートが変色することがあります。通常、暗色から淡色への変化が見られます。
  • 原因:水分や化学反応物質が表面に浸透し、変色を引き起こすためです。

ASRの識別方法

  1. 目視検査
  • コンクリート表面を直接観察し、ひび割れのパターンや幅、広がりを確認します。格子状の細かいひび割れが見られる場合、ASRの可能性が高いです。
  1. 非破壊検査
  • 超音波検査や赤外線サーモグラフィーを用いて、内部のひび割れや異常を検出します。これにより、表面下のひび割れや反応の進行状況を評価できます。
  1. サンプリングとラボ分析
  • コンクリートのコアサンプルを採取し、偏光顕微鏡観察や化学分析を行って、ASR生成物(膨張性ゲル)の存在を確認します。

「白色のゲル状物質」とは?

白色のゲル状物質は、ASR(アルカリシリカ反応)によって生成されるアルカリシリカゲルです。このゲルは、シリカ(SiO₂)を含む複雑な化学物質の混合物です。ただし、ゲルは純粋なSiO₂ではなく、シリカとアルカリ成分(ナトリウムやカリウム)および水分を含む膨張性の化合物です。

アルカリシリカゲルの成分
  1. シリカ(SiO₂)
  • 骨材中の反応性シリカがアルカリ成分と反応してゲルを形成します。
  1. アルカリ成分
  • コンクリート中のナトリウム(Na⁺)やカリウム(K⁺)イオンがシリカと反応します。
  1. 水分
  • ゲルが水分を吸収し膨張します。この水分吸収がひび割れを引き起こす主要な要因です。
アルカリシリカゲルの性質
  • 膨張性:アルカリシリカゲルは水分を吸収すると膨張し、内部の圧力を増加させます。この膨張がコンクリートにひび割れを引き起こします。
  • 白色の析出物:ひび割れ部分やその周囲に白色のゲル状物質が見られることがあります。これは、反応生成物が表面に析出したものです。
  • 化学的組成:ゲルは純粋なSiO₂ではなく、Na₂SiO₃やK₂SiO₃などのアルカリシリケート化合物を含みます。

白色の析出物と言えば、エトリンガイトがあるよね?違いは?

はい、白色の析出物としてエトリンガイト(Ettringite)もあります。エトリンガイトとアルカリシリカ反応(ASR)によるアルカリシリカゲルは、どちらもコンクリートの劣化に関わる生成物ですが、その生成メカニズムや性質は異なります。以下に、エトリンガイトとアルカリシリカゲルの違いを説明します。

エトリンガイト(Ettringite)
  • 生成メカニズム:エトリンガイトは、硫酸アルミン酸カルシウム水和物として知られており、セメントの水和反応の一部として生成されます。特に、アルミン酸三カルシウム(C₃A)と二水石膏(CaSO₄)および水の反応によって生成されます。
  • 外観:エトリンガイトは針状または柱状の結晶として現れ、白色の析出物として見られます。
  • 安定性:通常の硬化過程で生成されるエトリンガイトは安定していますが、遅延エトリンガイト形成(DEF)と呼ばれる現象では、長期間にわたり過剰な膨張を引き起こすことがあります。
アルカリシリカゲル(Alkali-Silica Gel)
  • 生成メカニズム:アルカリシリカゲルは、コンクリート中のアルカリ成分(Na⁺、K⁺)と反応性シリカが化学反応を起こすことにより生成されます。このゲルは水分を吸収して膨張し、内部の圧力を増加させてひび割れを引き起こします。
  • 外観:アルカリシリカゲルは、白色から透明のゲル状物質として現れ、ひび割れやコンクリート表面に析出することがあります。
  • 膨張性:水分を吸収して膨張し、コンクリート内部に圧力を生じさせるため、ひび割れや構造の劣化を引き起こします。

エトリンガイトとアルカリシリカゲルは、いずれも白色の析出物として現れることがありますが、生成メカニズムや物理的特性、発生条件は異なります。エトリンガイトは主にセメントの水和反応による生成物であり、特定の条件下で膨張を引き起こすことがあります。一方、アルカリシリカゲルは、アルカリ成分と反応性シリカが化学反応を起こすことで生成され、膨張性のゲルとしてコンクリートのひび割れや劣化の原因となります。


コンクリートの劣化の原因が、ASRであると判断する方法は?

コンクリートの変状の原因をASR(アルカリシリカ反応)であると特定するためには、以下の手順と方法を用いて調査を行います。

目視検査

ひび割れのパターン
  • 亀甲状のひび割れ:亀甲状や格子状のひび割れが特徴です。
  • 方向性のないひび割れ:特定の方向に偏らない不規則なひび割れが多いです。
  • 白色のゲル状物質:ひび割れ部分に白色のゲル状物質が析出していることがあります。
表面の変色
  • ひび割れ周辺のコンクリートが暗色から淡色に変色することがあります。

非破壊検査

超音波検査
  • 超音波を用いて内部のひび割れや異常を検出します。ASRによる内部の劣化が進行している場合、超音波の伝播速度に変化が見られます。
赤外線サーモグラフィー
  • 表面温度の変化を測定し、内部の劣化状態を評価します。ASRによる劣化部分は温度分布に異常が現れます。

サンプリングとラボ分析

コアサンプリング
  • コンクリートのコアサンプルを採取し、詳細な分析を行います。
偏光顕微鏡観察
  • コアサンプルを薄片にして偏光顕微鏡で観察します。ASRによる膨張性ゲルの存在を確認します。
化学分析
  • サンプル中のアルカリ成分やシリカ含有量を分析し、ASRのリスクを評価します。

膨張試験

モルタルバー法
  • 反応性シリカを含む骨材を使用してモルタルバーを作成し、膨張試験を行います。膨張率を測定し、ASRのリスクを評価します。

化学分析

アルカリシリカゲルの同定
  • コアサンプルから抽出したゲルを化学分析し、ASR特有のアルカリシリカゲルであることを確認します。
X線回折(XRD)分析
  • サンプルの鉱物組成を特定し、ASRに関連する鉱物(クリストバライト、トリダイマイトなど)の存在を確認します。

ASRの対処法は?

アルカリシリカ反応(ASR)が発生してしまった場合、劣化の進行を抑え、構造物の耐久性を維持するためには適切な対処が必要です。以下に、ASRが発生した場合の具体的な対処方法を説明します。

ASRの対処方法

表面シーリング

  • 目的:水分の侵入を防ぎ、ASRの進行を抑制する。
  • 方法:シリコン系やエポキシ系のシーラントを使用してひび割れをシールします。

ひび割れ注入

  • 目的:ひび割れを補修し、構造の一体性を回復する。
  • 方法:エポキシ樹脂やポリウレタン樹脂をひび割れに注入し、充填します。これにより、ひび割れの進行を抑え、構造的な強度を回復します。

表面被覆

  • 目的:コンクリート表面の保護と劣化の進行防止。
  • 方法:ポリマーセメントモルタルや特殊な被覆材を塗布します。これにより、水分や外部の有害物質からコンクリートを保護します。