コンクリート診断士【塩害】

コンクリート診断士

コンクリートの劣化の原因である、「塩害」について教えて!

コンクリートの塩害は、主に塩分の侵入によって鉄筋が腐食し、構造物の耐久性が低下する現象です。この現象は、以下の観点から説明できます。

海岸沿いと市中の塩害

海岸沿い:

  • 海水や海風には高濃度の塩分が含まれており、これがコンクリートに侵入します。
  • 潮風が直接コンクリート表面に当たることで、塩分がコンクリート内部に浸透しやすくなります。
  • 塩分の浸透が進むと、鉄筋が腐食しやすくなり、コンクリートのひび割れや剥離が発生します。

市中:

  • 市中では、冬季に使用される融雪剤(塩化カルシウムや塩化ナトリウム)が主な塩分供給源です。
  • 融雪剤が溶けてコンクリートに浸透すると、塩害が進行します。
  • また、車両の移動によって塩分が拡散され、広範囲に塩害が及ぶことがあります。

内在塩分と外部供給

内在塩分:

  • コンクリートの製造時に使用される材料(水、砂、骨材)に塩分が含まれている場合があります。
  • この内在塩分が硬化後に鉄筋に影響を与えることがあります。

外部供給:

  • 外部からの塩分供給は主に海岸沿いや市中の環境からのものです。
  • 海水の飛沫や潮風、融雪剤の使用が外部供給源となります。
  • 外部供給された塩分がコンクリート表面から内部へ浸透し、鉄筋を腐食させる原因となります。

塩害が進行するメカニズムは?

塩害が進行するメカニズムは、以下のステップを通じて理解できます。

塩分の侵入

塩害の主な原因は、塩分(主に塩化物イオン)がコンクリート内部に侵入することです。これにはいくつかのルートがあります。

  • 海岸沿いの環境: 潮風や海水の飛沫がコンクリート表面に付着し、そこから浸透します。
  • 都市環境: 冬季に使用される融雪剤(塩化カルシウムや塩化ナトリウム)がコンクリートに付着し、浸透します。

塩化物イオンの移動

コンクリート内部に侵入した塩化物イオンは、水分を媒介にしてコンクリートの毛細管を通じて内部へ移動します。このプロセスは、以下の要因に影響されます。

  • 水セメント比: コンクリートの水セメント比が高いほど、毛細管径が大きくなり、塩分が浸透しやすくなります。
  • ひび割れ: コンクリートにひび割れがある場合、塩分の浸透が加速されます。

鉄筋の腐食

塩化物イオンが鉄筋まで到達すると、以下のような腐食反応が進行します。

  • 不動態皮膜の破壊: 通常、鉄筋はアルカリ性のコンクリートに囲まれているため、表面に不動態皮膜が形成されています。しかし、塩化物イオンがこの保護膜を破壊します。
  • 腐食反応: 鉄筋が酸化され、以下の反応が進行します。
  • 鉄 (Fe) + 塩化物イオン (Cl⁻) + 水 (H₂O) → 鉄イオン (Fe²⁺) + 水酸化物イオン (OH⁻) + 塩素 (Cl₂)
  • 鉄イオン (Fe²⁺) + 酸素 (O₂) + 水 (H₂O) → 錆 (Fe(OH)₃)

錆の生成と膨張

腐食によって生成された錆 (Fe(OH)₃) は、元の鉄の体積の約2〜4倍に膨張します。この膨張圧力がコンクリート内部に作用し、以下のような問題を引き起こします。

  • ひび割れの発生: 内部圧力により、コンクリートにひび割れが生じます。
  • 剥離: ひび割れが進行すると、コンクリート表面が剥離することがあります。
  • 耐久性の低下: 鉄筋の断面積が減少し、構造物の耐久性が低下します。

塩害の進行

一度発生したひび割れや剥離が進行すると、さらに塩分が侵入しやすくなり、腐食が加速します。これにより、構造物全体の耐久性が急激に低下するリスクが高まります。


塩化物イオンというのは、塩の事?

塩と塩化物イオンの関係

塩化物イオン(Cl⁻)は塩の一部ですが、塩そのものとは異なるものです。塩と塩化物イオンの関係について以下で詳しく説明します。

塩(塩化ナトリウム)

  • 化学式: NaCl
  • 構成要素: 塩化ナトリウム(NaCl)は、ナトリウムイオン(Na⁺)と塩化物イオン(Cl⁻)から成ります。
  • 状態: 固体の形で存在する場合、食卓塩や海塩として知られています。

塩化物イオン

  • 化学式: Cl⁻
  • 性質: 負の電荷を持つイオンで、水溶液中で自由に移動します。
  • 生成: 塩化ナトリウムが水に溶解すると、ナトリウムイオン(Na⁺)と塩化物イオン(Cl⁻)に分離します。

関係

  • 溶解と解離: 塩(NaCl)は水に溶けるとNa⁺とCl⁻に解離します。これにより、塩化物イオンが水溶液中で存在することになります。
  • NaCl (固体) → Na⁺ (水中) + Cl⁻ (水中)

コンクリートの塩害における塩化物イオン

  • 塩化物イオンの役割: コンクリート内部に侵入した塩化物イオンは、鉄筋の不動態皮膜を破壊し、腐食を引き起こします。
  • 侵入経路: 海水や融雪剤(塩化ナトリウムや塩化カルシウムなど)が主な供給源です。これらがコンクリート表面に付着し、水とともに内部に浸透します。

負の電荷を持つイオン」とは?

「負の電荷を持つ」とは、塩化物イオン(Cl⁻)が1つの余分な電子を持っていることを意味します。これが腐食反応にどのように影響するか、アノード反応とカソード反応の概念と合わせて説明します。

塩化物イオン(Cl⁻)について

  • 性質: 塩化物イオンは負の電荷を持つイオンで、コンクリート内部に侵入して鉄筋の腐食を促進します。
  • 腐食の役割: 塩化物イオンが鉄筋まで到達すると、鉄筋表面の不動態皮膜を破壊し、腐食反応を開始させます。
    鉄筋の腐食は、アノード反応とカソード反応が同時に進行する電気化学反応として理解されます。

アノード反応(酸化反応)

アノードでは鉄が電子を失い、酸化されます。このプロセスは以下の反応式で表されます。

  • 反応式: Fe → Fe²⁺ + 2e⁻
  • 説明: 鉄(Fe)が鉄イオン(Fe²⁺)と電子(e⁻)に分離します。鉄イオンは水溶液中に溶け出し、電子は鉄筋の表面に残ります。

カソード反応(還元反応)

カソードでは、酸素と水が電子を受け取って水酸化物イオン(OH⁻)を生成します。このプロセスは以下の反応式で表されます。

  • 反応式: O₂ + 2H₂O + 4e⁻ → 4OH⁻
  • 説明: 大気中の酸素(O₂)が水(H₂O)と反応し、電子を受け取って水酸化物イオン(OH⁻)を生成します。

全体の腐食プロセス

  1. 塩化物イオンの侵入: 塩化物イオンがコンクリート表面から内部に浸透し、鉄筋に到達します。
  2. アノード反応: 鉄が酸化され、鉄イオンと電子が生成されます。
  3. カソード反応: 電子が酸素と水と反応して水酸化物イオンが生成されます。
  4. 錆の生成: 鉄イオンが水酸化物イオンと反応して錆(Fe(OH)₃)を形成し、これが膨張してコンクリートにひび割れを生じさせます。

塩化物イオンは鉄筋の不動態皮膜を破壊し、アノード反応とカソード反応を促進することで腐食を引き起こします。アノードでは鉄が酸化され、カソードでは酸素が還元されることで、鉄筋の腐食が進行します。


アノード反応・カソード反応というのは、

塩害(塩化物イオン)によってのみ起きるの?

塩化物イオンの侵入以外にも、アノード反応やカソード反応が起きる状況はいくつかあります。以下のような要因が関与する場合にも、腐食反応が進行することがあります。

二酸化炭素の侵入(炭酸化)
  • 炭酸化: 大気中の二酸化炭素(CO₂)がコンクリート内部に浸透し、水と反応して炭酸を生成します。これにより、コンクリートのアルカリ性が低下し、鉄筋を保護する不動態皮膜が失われます。
  • 腐食の開始: 不動態皮膜が破壊されると、鉄筋が環境にさらされ、アノード反応とカソード反応が進行します。
酸の侵入
  • 酸性物質の影響: 酸性雨や産業排水などの酸性物質がコンクリートに侵入すると、コンクリートのアルカリ性が低下し、不動態皮膜が破壊されます。
  • 腐食の開始: 酸によって鉄筋が露出し、アノード反応とカソード反応が進行します。
物理的損傷やひび割れ
  • ひび割れの発生: コンクリートに物理的な損傷やひび割れが生じると、鉄筋が直接環境にさらされることになります。
  • 腐食の進行: 鉄筋が露出しているため、水分や酸素が直接鉄筋に到達し、アノード反応とカソード反応が進行します。
湿潤と乾燥の繰り返し
  • 湿潤と乾燥の影響: 湿潤と乾燥の繰り返しにより、コンクリート内部に水分が出入りします。この過程で鉄筋が部分的に露出し、腐食が進行します。
  • 腐食の進行: 水分と酸素が鉄筋に到達しやすくなり、アノード反応とカソード反応が進行します。

一方で、塩害によって引き起こされるアノード反応・カソード反応が特に注目される理由は、以下の点にあります。

塩化物イオンの強力な腐食促進作用
  • 強力な促進作用: 塩化物イオン(Cl⁻)は鉄筋の不動態皮膜を効率的に破壊し、腐食を急速に進行させます。他の腐食因子(例えば炭酸化や酸性雨)に比べて、塩化物イオンの腐食促進作用は非常に強力です。
  • 迅速な進行: 塩化物イオンの存在下では、アノード反応とカソード反応が迅速に進行し、短期間で深刻な腐食が発生します。
広範な影響
  • 環境の影響: 海岸沿いや寒冷地(融雪剤の使用地域)など、広範な地域で塩害が発生します。これにより、多くの構造物が塩害の影響を受けるリスクがあります。
  • 建物の劣化: 塩害による腐食は、建物の寿命を大幅に短縮し、メンテナンスや補修コストを増大させます。
腐食のメカニズム
  • アノード反応とカソード反応の連携: 塩害によって引き起こされる腐食は、アノード反応(鉄の酸化)とカソード反応(酸素の還元)が密接に連携して進行します。これにより、腐食速度が速くなり、構造物の耐久性が急速に低下します。
  • 錆の生成と膨張: 錆(Fe(OH)₃)の生成に伴う膨張がコンクリートに大きなダメージを与え、ひび割れや剥離を引き起こします。

塩害によって起こるアノード反応・カソード反応が特に注目される理由は、その強力な腐食促進作用、広範な影響、迅速な腐食進行、そして他の腐食原因に比べて深刻な劣化を引き起こすためです。


そう言えば、塩化物イオン濃度は1.2kg/㎥以下って言うのがあったよね?

はい。土木学会コンクリート標準示方書によれば、鋼材腐食発生限界塩化物イオン濃度は、水セメント比65%において1.2 kg/m³が目安であるとされています。
一方、塩害を抑制するには、コンクリート中に含まれる塩化物イオン量を0.3kg/㎥以下に減じる必要があります。少し紛らわしいですが、これらの数値の違いはしっかり覚えて下さい。


他にも対策がある?

塩害の抑制・対策

塩害を抑制するためには、コンクリートの設計や施工、維持管理において様々な対策を講じることが重要です。以下に具体的な対策をいくつか挙げます。

材料選定と配合設計

  • 低塩化物含有材料の使用: コンクリート中の塩化物イオン量を0.3kg/㎥以下に抑えるために、低塩化物含有のセメント、骨材、水を使用します。
  • 防錆鉄筋の使用: エポキシコーティングや亜鉛メッキされた防錆鉄筋を使用することで、鉄筋の腐食を抑制します。
  • 高密度コンクリートの使用: 水セメント比を低く設定し、高密度のコンクリートを作ることで、塩化物イオンの侵入を防ぎます。

コンクリートの配合改善

  • 混和材の使用: フライアッシュ、シリカフューム、スラグなどの混和材を使用することで、コンクリートの密度を高め、耐久性を向上させます。
  • ポゾラン反応の活用: 混和材によりポゾラン反応を促進し、コンクリートの微細構造を改良します。

施工技術の向上

  • 適切なかぶり厚の確保: 鉄筋のかぶり厚を適切に確保することで、塩化物イオンの到達を遅らせます。
  • コンクリートの養生: 適切な湿潤養生を行い、コンクリートの強度と密度を十分に発現させます。
  • コンクリートの打設方法: 緻密なコンクリートを形成するために、適切な打設と締固めを行います。

防護措置

  • 表面コーティング: コンクリート表面に防水コーティングやシーラントを施すことで、塩化物イオンの侵入を防ぎます。
  • カソード防食法: 鉄筋に対してカソード防食法を適用し、電気的に腐食を抑制します。
  • 防錆剤の添加: コンクリートに防錆剤を添加することで、鉄筋の腐食を防ぎます。

環境管理と保守

  • 定期点検とメンテナンス: 定期的に構造物を点検し、初期段階でのひび割れや劣化を早期に発見し、適切に補修します。
  • 環境の制御: 海岸沿いや融雪剤が多用される地域では、構造物の設計や使用材料に特に注意を払い、塩化物イオンの侵入を最小限に抑える対策を講じます。

これらの対策を総合的に実施することで、コンクリート構造物の塩害を効果的に抑制し、耐久性を向上させることが可能です。塩害に対する予防措置を適切に講じることは、長寿命で安全な構造物の維持に不可欠です。


塩化物イオンによる劣化かどうか、どうやって見極めるの?

塩化物イオンによる劣化の判断

  1. 目視検査:鉄筋の錆びやコンクリート表面のクラックをチェック。
  2. 自然電位法:鉄筋の腐食状態を評価し、塩化物イオンの影響を確認。
  3. 塩化物イオン濃度測定:イオンクロマトグラフィー(IC)で塩化物イオン濃度を測定。

2と3は、どんな調査なの?

自然電位法による塩害の調査方法

自然電位法(Potential Measurement Method)は、コンクリート構造物の鉄筋の腐食状態を評価する非破壊検査手法です。この方法では、鉄筋の電位を測定して腐食の進行度を推定します。

  1. 準備
  • 表面清掃: コンクリート表面の汚れや異物を取り除きます。
  • 電極の準備: 参照電極(銅/硫酸銅電極など)とポテンショメーター(電位差計)を用意します。
  1. 測定
  • 電極配置: 参照電極をコンクリート表面に設置し、測定位置に合わせて移動させます。
  • 接触液の使用: コンクリート表面に接触液(水や導電性ゲル)を塗布し、電極とコンクリートの接触抵抗を低減します。
  • 電位測定: ポテンショメーターを使用して、参照電極と鉄筋の間の自然電位を測定します。測定値を記録し、複数の位置で測定を行います。
  1. データ解析
  • 電位の分布解析: 測定した電位分布を解析し、腐食の有無や進行状況を評価します。
    • 腐食の可能性: 一般的に、鉄筋の電位が-200 mV(銅/硫酸銅基準)よりも負の値の場合、腐食が進行している可能性があります。
    • 電位の変動: 電位が急激に変動する場所は、腐食が集中している可能性があります。
    • 評価結果: 測定データをもとに、コンクリート構造物の腐食状態を評価し、報告します。

イオンクロマトグラフィーによる塩害の調査方法

イオンクロマトグラフィー(Ion Chromatography)は、コンクリート中の塩化物イオンの含有量を定量的に測定するための分析手法です。以下にその詳細な手順を説明します。

  1. サンプル採取
  • コア採取: コンクリート構造物からコアサンプルをドリルで採取します。サンプルは塩化物イオンの浸透深さを評価するために、異なる深さから採取します。
  1. サンプルの前処理
  • 粉砕: 採取したコアサンプルを粉砕し、均一な粉末にします。
  • 溶出: 粉末サンプルを純水に浸漬し、塩化物イオンを溶出させます。溶出時間や温度は規定に従います。
  1. 試料の準備
  • ろ過: 溶出液をろ過して、不純物を除去します。ろ過後の溶液が分析用の試料となります。
  1. イオンクロマトグラフィーの分析
  • 注入: 準備した試料をイオンクロマトグラフィー装置に注入します。
  • 分離: カラムを通してイオンを分離します。カラムはイオン交換樹脂で満たされており、塩化物イオンが特定の順序で分離されます。
  • 検出: 分離された塩化物イオンは検出器で検出され、ピークとして記録されます。
  1. データ解析
  • ピークの同定と定量: 標準試料と比較して、塩化物イオンのピークを同定し、その面積から濃度を定量します。
  • 結果の報告: コンクリート中の塩化物イオン濃度を計算し、結果を報告します。

これらの方法を組み合わせることで、塩害の影響を総合的に評価し、適切な補修や防護措置を講じることが可能です。


塩害を受けたコンクリートの対処(補修・補強)法は?

塩害を受けたコンクリート構造物の対処法

調査と評価

  • 損傷評価: 目視検査や非破壊検査(自然電位法など)で鉄筋の腐食状態を評価。
  • 塩化物濃度測定: コアサンプリングと分析(イオンクロマトグラフィーなど)で塩化物イオン濃度を測定。

補修方法

  • 表面保護: 防水剤や表面被覆材を使用して新たな塩化物イオンの侵入を防ぐ。
  • 除塩工法: 電気化学的脱塩法でコンクリート内の塩化物イオンを除去。
  • 鉄筋の補修: 錆びた鉄筋を清掃・防錆処理し、必要に応じて交換。
  • 補修材の適用: 高耐久性の修復材を使用して補修。

予防策

  • 防水処理: 防水剤やコーティングでコンクリートを保護。
  • 定期メンテナンス: 定期的に検査し、早期に補修を行う。