建設業経理士1級試験で毎回苦戦を強いられるのが、第1問の「記述問題」。意外な用語が出題されることもあり、対応が難しいと感じている方も多いのではないでしょうか。
本サイトでは、原価計算・財務諸表・財務分析の各科目別に、過去問を通じた学習方法や記述問題の書き方を徹底解説します。合格を目指す皆さんの学習効率アップにお役立てください。
さあ、一緒に過去問演習とポイント解説を進めて、合格を勝ち取りましょう!
第16回
損益計算書に関する次の設問に答えなさい。各設問とも指定した字数以内で記入すること。
問1 損益計算書の意義について述べなさい。(200字以内)
【解答例】(194字)
損益計算書は、一定期間に発生した収益と費用を対応表示して当期純利益を導く財務諸表である。その意義として、投資家や債権者はこれを通じて過去の資金運用の成果を評価し、企業の経営成績を的確に把握するだけでなく、将来の収益性を予測する手掛かりを得ることができる。また、損益法に基づいて経常利益を表示することで、企業の収益力や安定性をより明確に示し、利害関係者の投資判断や経営改善にも寄与している。
【ポイント】
まず「損益計算書がどのようなものか」を簡潔に定義した上で、なぜそれが重要で、誰にどんな情報を与えるのかという目的を示し、さらに企業の収益力や安定性を測るうえで具体的にどのように使われるのかを述べます。
つまり、損益計算書の基礎的な説明(定義)から始め、その財務諸表を通じた企業評価や将来予測(目的)につなげ、最後に「経常利益」など実際に判断材料として利用できる指標(具体例)にも触れた解答に仕上げます。
問2 会社計算規則や建設業法施行規則では、損益計算書の様式に関して種々の規定を設けている。その主要なものを3つ挙げて説明しなさい。(300字以内)
【解答例】(274字)
会社計算規則や建設業法施行規則では、損益計算書の様式に関し、主に三つの表示規定を定めている。第一に、報告式を採用し、収益と費用を縦に配列して段階的に差引計算を行うこと。第二に、区分計算により営業利益や経常利益など複数の利益区分を示すこと。第三に、総額主義の原則に基づき収益と費用の相殺を禁じ、取引規模を明らかにする点である。
これらにより企業の経営成績が的確に把握でき、利害関係者が多様な観点から収益性を判断する基礎資料となる。また、必要に応じて発生原因ごとの科目明細や注記による重要項目の補足開示が求められ、取引内容をより正確に示す工夫も施される。
【ポイント】
この解答を導く際の思考のポイントとしては、大きく次の手順を踏みましょう。まずは、問題文で「損益計算書の様式に関して主要な規定を三つ挙げて説明しなさい」と問われているため、会社計算規則や建設業法施行規則に定められている表示上の規定から、代表的なものを整理して選び出します。
次に、選んだ規定(報告式・区分計算・総額主義など)について、「定義(何を定めているか)」「目的(なぜ必要か)」を明確にし、必要に応じて発生原因ごとの科目明細や注記開示などの具体的な補足も示すようにしましょう。
最後に、これらがどのように企業の経営成績や取引規模を分かりやすく示し、利害関係者の判断に寄与するかをまとめることで、解答としての流れが完成します。
第17回
棚卸資産原価の期間配分に関する次の設問に答えなさい。各設問とも指定した字数以内で記入すること。
問1 払出数量を計算する2つの方法を挙げて説明しなさい。(200字以内)
【解答例】(183字)
棚卸資産の払出数量を計算する方法には、継続記録法と棚卸計算法がある。
① 継続記録法
仕入や払出のたびに記録を行い、在庫の動きを常に把握する方法。リアルタイムで在庫管理ができるが、記録の手間がかかる。
② 棚卸計算法
期中は払出の記録をせず、期末に実地棚卸を行い、期首在庫と仕入の合計から期末在庫を差し引いて払出数量を計算する方法。記録の負担が少ないが、正確な在庫管理は難しい。
【ポイント】
棚卸資産の払出数量を求める方法には、継続記録法と棚卸計算法の2つがあります。
継続記録法は、仕入や払出のたびに記録を行い、常に在庫を管理する方法です。目的は、リアルタイムで正確な在庫状況を把握し、管理ミスや過不足を防ぐことにあります。
例えば、建設現場で使用する鉄筋やコンクリートの数量をBIMやERPシステムで逐一記録し、適切な資材発注やコスト管理を行う場合などが該当します。
一方、棚卸計算法は、期中の払出を記録せず、期末に実地棚卸を行い、期首在庫と仕入の合計から期末在庫を差し引くことで払出数量を算出する方法です。目的は、記録の手間を減らし、一定期間ごとに在庫を管理することにあります。
例えば、土木工事の現場で使用する砕石や砂などを、大まかな数量管理で運用し、期末に現地で在庫を確認して払出量を計算する場合などが挙げられます。
継続記録法は精密な管理が求められる場合に適し、棚卸計算法は比較的低コストで管理が可能な点が特徴です。
問2 払出単価を算定する方法について説明しなさい。(300字以内)
【解答例】(286字)
① 個別法
各在庫の実際の取得原価を基に払出単価を決定する方法。高価な品目や特定用途の在庫に適する。
② 先入先出法
先に取得したものから順に払出されると仮定する方法。物価上昇時には、古い安い原価が売上原価となり、利益が大きくなる。
③ 平均原価法
在庫の総取得原価を総数量で割って平均単価を算出し、それを払出単価とする方法。価格変動の影響を平準化できる。
④ 後入先出法
後に取得したものから順に払出されると仮定する方法。物価上昇時には、直近の高い原価が売上原価となり、利益が小さくなるが、現在の仕入価格に近い原価を計上できる。
ただし、「棚卸資産の評価に関する会計基準」では認められていない。
【ポイント】
企業会計原則では、棚卸資産の払出単価の算定方法として個別法、先入先出法、平均原価法、後入先出法の4つが認められています。ただし、「棚卸資産の評価に関する会計基準」では後入先出法は認められていません。
個別法は、各資材の実際の取得価格を払出単価とする方法で、目的は、正確な原価計算を行い、特定プロジェクトごとのコスト管理を徹底することにあります。
例えば、特注の免震装置や大型機械設備など、建設プロジェクトごとに単価が異なる資材を扱う場合に適用されます。
先入先出法は、先に仕入れたものから順に払出すと仮定する方法で、目的は、時系列に沿った原価計算を行い、資産評価を安定させることにあります。
例えば、生コンクリートのように、保存期間が限られる資材を管理する場合には、この方法が適しています。
平均原価法は、一定期間の仕入総額を総数量で割り、平均単価を算定する方法で、目的は、価格変動の影響を平準化し、在庫評価を安定させることにあります。
例えば、一般的な木材やボルト・ナットなど、比較的価格変動が少なく、大量に管理する資材に適用する場合に使われます。
後入先出法は、後に仕入れたものから順に払出すと仮定する方法で、目的は、物価変動の影響を考慮し、直近の仕入れ価格に基づいた原価計算を行うことにあります。
例えば、鉄筋や型枠材など、価格変動が激しい資材を管理する際に、仕入れ価格を即座に反映したい場合には適用されることがありましたが、現在の会計基準では認められていません。
このように、払出単価の算定方法は、資材の特性や管理の目的に応じて使い分けることが重要です。
第18回
貸借対照表に関する以下の問いに解答しなさい。各設問とも指定した字数以内で記入すること。
問1 貸借対照表の意義について説明しなさい。(200字以内)
【解答例】(199字)
貸借対照表は、企業の財政状態を一定時点で明らかにする財務諸表であり、「資産=持分(負債+純資産)」という計算原理に基づいて作成される。
資産は、企業が保有する現金や設備などの運用形態を示し、負債と純資産は、それらの資金がどのように調達されたかを表す。建設業では、未成工事支出金や完成工事未収入金など、特有の資産項目が含まれる。貸借対照表は、資金の流れを可視化し、経営判断や資金繰りの管理に活用される。
【ポイント】
貸借対照表は、企業の財政状態を一定時点で明確に示す財務諸表です。企業の所有する資産と、その資金調達の方法を示す負債・純資産(持分)を対照的に表示することで、経営の安定性や資金の流れを把握することができます。
この財務諸表の目的は、企業がどのように資金を調達し、どのように運用しているかを明確にし、財務の健全性を判断することにあります。特に建設業では、長期間にわたる工事が多く、現金の流れが複雑なため、貸借対照表の管理が重要になります。
例えば、未成工事支出金(工事に使ったが未完成のため回収できていない費用)は、企業の運用資産として計上されます。
一方で、工事の進捗に応じて受け取る未成工事受入金(工事の前受金)は負債として計上されます。
このように、貸借対照表を活用することで、工事ごとの資金の流れを明確にし、資金繰りの管理を適切に行うことができます。
問2 資産・負債を流動項目と固定項目に区分する基準について説明しなさい。(300字以内)
【解答例】(285字)
①正常営業循環基準
建設業の通常の営業取引の流れ(現金 → 資材購入 → 工事 → 完成工事未収入金 → 現金)に基づき、未成工事支出金や完成工事未収入金など、工事に関する資産・負債を流動項目とする基準。例えば、工事の進行中に発生する未成工事支出金は流動資産、工事代金の未回収分は流動負債に分類される。
②一年基準
営業取引以外で発生した資産・負債について、貸借対照表日の翌日から1年以内に決済されるものを流動項目、1年以上かかるものを固定項目とする基準。例えば、短期借入金は流動負債、長期借入金は固定負債になる。
この区分により、資金繰りの安定性や企業の財務状況を適切に把握することができる。
【ポイント】
資産・負債を流動項目と固定項目に分類する基準には、正常営業循環基準と一年基準があります。
正常営業循環基準は、建設業の通常の営業取引の流れに基づいて分類する方法です。建設業では、「現金 → 資材購入(支払手形・工事未払金)→ 工事進行(未成工事支出金)→ 完成(完成工事未収入金・受取手形)→ 現金」といった資金の流れがあります。この取引の中で発生する債権(未成工事支出金、完成工事未収入金)や債務(工事未払金、受取手形)は流動項目とされます。目的は、建設工事に直接関連する資金の流れを明確にし、適切な資金管理を行うことです。
例えば、ゼネコンが下請け業者に支払う工事未払金は、通常の営業取引の一部であり、流動負債に分類されます。また、建築資材を購入して施工中の状態である未成工事支出金も、営業循環内の資産として流動資産に分類されます。
一年基準は、建設業の通常の営業取引以外の取引に対して適用される基準です。貸借対照表の翌日から1年以内に決済されるものは流動項目、それ以上の期間を要するものは固定項目とする考え方です。目的は、長期的な財務の安定性を評価することにあります。
例えば、1年以内に返済予定の短期借入金は流動負債、1年以上の返済期間がある長期借入金は固定負債に分類されます。また、建設会社が保有する重機や建設設備などの資産は、1年以上使用されるため、固定資産に分類されます。
このように、資金の流動性や活用方法に応じて適切に区分することで、企業の財務状況をより正確に把握し、経営判断の材料とすることができます。
第19回
固定資産の減損会計に関する次の設問に答えなさい。各設問とも指定した字数以内で記入すること。
問1 固定資産の減損および減損処理の意味について述べなさい。(200字以内)
【解答例】(190字)
固定資産の減損とは、資産の収益性が低下し、投資した金額を回収できなくなった状態を指す。
減損処理は、こうした資産の実際の価値を財務諸表に適切に反映させるために、帳簿価額を回収可能額まで減額する会計処理である。
目的は、資産の価値を適正に評価し、将来に損失を繰り延べないようにすることであり、この処理は棚卸資産の評価減や臨時償却と同様に、企業の財務状況をより正確に示すために行われる。
【ポイント】
固定資産の減損とは、企業が保有する資産の収益性が低下し、投資した金額を回収できなくなった状態を指します。例えば、建設会社が所有する遊休地が都市計画の変更で利用価値を失った場合や、技術の進歩によって使われなくなった建設機械が大幅に価値を下げた場合などが該当します。
このような場合、実際の資産価値に合わせるために減損処理を行い、帳簿価額を回収可能額まで減額する必要があります。その目的は、財務諸表を適正に保ち、資産価値の過大評価を防ぐことにあります。特に建設業では、長期間にわたる工事や景気の変動の影響を受けやすいため、不要な設備や老朽化した建物を適切に評価し、経営判断の正確性を高めることが求められます。
例えば、生産性の落ちた旧型の建設機械を、最新設備の導入により廃棄する場合、もしくは市場での売却価値が大きく下がった場合、その価値を適正に評価し、減損処理を行うこと必要があります。
問2 減損損失の測定について述べなさい。(300字以内)
【解答例】(291字)
減損損失を測定するには、固定資産の帳簿価額と回収可能価額を比較し、帳簿価額が高い場合にその差額を減損損失として計上する。回収可能価額は、次のいずれか高い方で決定する。
- 正味売却価額(売却価額から売却費用を控除した金額)
- 使用価値(将来生み出すキャッシュ・フローを現在価値に割り引いた金額)
例えば、使用頻度の低くなったクレーン車が市場価格の下落で売却しても帳簿価額を下回る場合、そのクレーンの売却価格(正味売却価額)や、今後の使用による収益(使用価値)を見積もり、どちらか高い方を回収可能価額とする。
市場価格が明確でない場合は、公正な評価額を基に合理的に算定された金額を採用する。
【ポイント】
減損損失の測定は、資産の帳簿価額と回収可能価額を比較する事によって行います。なお、回収可能価額は、以下のいずれか高い方の金額とされます。
- 正味売却価額(資産を市場で売却した場合の金額から、売却費用を差し引いた額)
- 使用価値(将来その資産を使用して得られる収益の現在価値)
例えば、建設会社が所有する古い重機の売却を検討した際に、中古市場での価格が帳簿価額より大幅に低下していた場合、その売却価格(正味売却価額)と、今後の使用による収益(使用価値)を比較し、高い方を回収可能価額とします。もし帳簿価額を下回る場合、その差額を減損損失として計上します。
市場価格が明確に分からない場合は、公正な評価額を基に合理的に算定する必要があります。これにより、企業の資産価値を適正に評価し、財務の透明性を確保することができます。特に、建設業では設備投資額が大きいため、定期的な資産評価と適切な減損処理が重要となります。
第20回
引当金に関する次の設問に答えなさい。各設問とも指定した字数以内で記入すること。
問1 引当金繰入額を計上する目的とその要件について説明しなさい。(300字以内)
【解答例】(245字)
引当金繰入額を計上する目的は、企業の期間利益を正確に計算し、財務諸表の信頼性を確保することにある。引当金を計上するためには、次の4つの要件を満たす必要がある。
① 将来の特定の費用・損失であること
② 当期以前に発生した事象に起因すること
③ その発生の可能性が高いこと
④ 金額の見積りが合理的に行えること
これらの要件をすべて満たした場合のみ、引当金として計上できる。例えば、大型建築プロジェクトで施工不良のリスクが判明し、修繕費が発生する可能性が高い場合、その金額を見積もって工事補償引当金を計上する。
【ポイント】
引当金とは、将来の特定の費用や損失に備えて、事前に負債として計上するものです。目的は、期間損益を適正に反映し、財務諸表の正確性を確保することにあります。
引当金を計上するには、以下の4つの要件を満たす必要があります。
- 将来の特定の費用・損失であること
建設業では、施工後の補修費や保証期間内の修繕費がこれに該当します。例えば、施工した橋梁に瑕疵が見つかり、補修が必要と予想される場合、その費用を引当金として計上します。 - 当期以前の事象に起因すること
発生する費用の原因が、当期以前の取引や事象であることが必要です。例えば、当期に完工したマンションの施工不良が後に判明し、修繕費が発生する可能性がある場合、その修繕費を当期の負債として計上します。 - 発生の可能性が高いこと
単なる予測ではなく、合理的な根拠に基づいて費用の発生が見込まれる必要があります。例えば、過去の類似工事で一定割合の瑕疵が発生している場合、補修費の発生は高い確率で予測されます。 - 金額の見積りが合理的に行えること
将来の費用や損失が、客観的なデータを基に見積もれることが必要です。例えば、過去の補修実績や材料費、工賃を基に補修費を計算する場合、合理的な見積りが可能となります。
このように、引当金を適切に計上することで、建設業の財務状況をより正確に反映し、適正な利益計算を行うことができます。
問2 工事損失引当金について説明しなさい。(200字以内)
【解答例】(178字)
工事損失引当金は、工事全体で赤字が見込まれる場合に、将来の損失に備えて計上する引当金である。
建設工事契約において、工事原価総額(販売直接経費を含む)が工事収益総額を上回る可能性が高く、その金額を合理的に見積もることができる場合、その超過額を損失として計上し、工事損失引当金として処理する。
これにより、将来の損失を事前に計上し、財務諸表の適正性を維持できる。
【ポイント】
工事損失引当金とは、着工中の工事について、契約時に見込んだ収益を確保できず、工事全体で損失が見込まれる場合に計上する引当金です。目的は、工事が完了する前に損失を適切に認識し、財務諸表の正確性を確保することにあります。
この引当金を計上するには、工事原価総額が工事収益総額を超過する可能性が高く、その金額を合理的に見積もれることが条件となります。
例えば、長期間のトンネル工事で、地盤の状況が予想以上に悪く、追加の掘削費や補強工事が必要となった場合、当初の見積もりより工事費が増大し、工事全体で損失が発生することが確実になれば、その超過分を工事損失引当金として計上します。
また、資材価格の高騰や人件費の上昇により、予定していた工事原価が大幅に増加し、工事が赤字になることが明らかになった場合も、工事損失引当金を計上する必要があります。
この処理を適切に行うことで、将来の損失を事前に財務諸表に反映し、企業の財務状況を正しく示すことができます。特に建設業では、工事の長期化や不確定要素が多いため、早期に損失を認識することが重要となります。
第21回
リース会計基準に基づき以下の設問に答えなさい。各設問とも指定した字数以内で記入すること。
問1 リース取引の分類について述べなさい。(300字以内)
【解答例】(298字)
リース取引は、ファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引の2種類に分類される。
ファイナンス・リース取引は、リース契約期間中に途中解約ができない、またはこれに準じる取引で、借手がリース資産の経済的利益を実質的に享受し、維持コストを負担するものを指す。例えば、建設会社がクレーン車を長期間リースし、解約不能で、実質的に所有しているのと同じ状態である場合、この取引はファイナンス・リースに該当する。
オペレーティング・リース取引は、ファイナンス・リース取引に該当しないすべてのリース取引を指します。例えば、建設現場で短期間だけ利用する仮設事務所のリースはオペレーティング・リースに分類される。
【ポイント】
リース取引は、企業が一定期間、資産を借りて使用する契約ですが、その実質的な性質によってファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引の2種類に分類されます。
ファイナンス・リース取引は、契約期間中に解約ができず、借手が実質的に資産の経済的利益を享受し、コストを負担する取引です。目的は、リース資産を事業に活用することで、資金を効率的に運用しつつ、実質的に資産を所有するのと同じ状態を作ることにあります。
例えば、建設会社が高額なクレーン車を長期間リースする場合、契約により解約ができず、維持管理の責任も借手にあるとき、そのリースはファイナンス・リースとして扱われます。この場合、企業はリース資産を貸借対照表に計上し、減価償却や利息相当額を処理する必要があります。
一方、オペレーティング・リース取引は、ファイナンス・リース取引に該当しないリース契約で、資産の所有リスクが貸手にあり、借手はリース料を支払うだけで利用できるものです。目的は、短期間の利用や資産の保有リスクを回避し、設備を効率的に使用することにあります。
例えば、建設現場で一時的に使用する仮設事務所や足場をリース契約する場合、その契約が短期間で返却可能であれば、オペレーティング・リースに該当します。この場合、リース料を費用として処理し、資産計上は不要となります。
このように、リース取引の分類は、資産の所有リスクや契約の性質を考慮して判断することが重要です。
問2 ファイナンス・リース取引については、通常の売買取引に係る方法に準じて会計処理を行う理由を述べなさい。(200字以内)
【解答例】(178字)
ファイナンス・リース取引は単なる物件の賃貸借ではなく、金融取引としての性格が強くなっているため、リース料の支払いのみを記録すると、ファイナンス・リース資産が貸借対照表に記載されず、利害関係者の判断を誤らせる可能性がある。
ファイナンス・リース取引では、借手が資産の経済的利益を享受し、実質的に所有している状態となるため、通常の売買取引と同様に会計処理を行う。
【ポイント】
リース取引は、単なる物件の貸し借りではなく、金融取引としての性格を持つ場合があるため、適切な会計処理が求められます。特にファイナンス・リース取引は、実質的に資産の所有と同じ状態になるため、通常の売買取引に準じた会計処理を行います。
目的は、リース資産を正しく財務諸表に反映し、企業の財務状況を適正に示すことです。もしリース料の支払いだけを記録し、リース資産を貸借対照表に計上しない場合、企業の実際の資産や負債が適切に反映されず、利害関係者の判断を誤らせる可能性があります。
例えば、建設会社が大型重機を長期リース契約で利用し、解約不能かつ資産の維持管理も借手の責任である場合、その重機は企業の資産と同じ性質を持ちます。この場合、通常の購入と同様に貸借対照表に計上し、減価償却費やリース負債の利息相当額を適切に認識することで、財務の透明性を確保できます。
このように、ファイナンス・リース取引は、借手が資産の経済的価値を享受し、コストも負担するため、実質的に売買取引と同様の処理を行う必要があることを理解しておきましょう。
第22回
固定資産の減損に関する以下の問に答えなさい。各設問とも指定した字数以内で記入すること。
問1 どのような場合に減損損失を認識するかについて説明しなさい。(300字以内)
【解答例】(283字)
減損損失は、固定資産の収益性が低下し、投資額の回収が見込めなくなった場合に認識される。これは、資産の価値を適正に反映し、財務諸表の信頼性を確保するために行われる。
減損の兆候がある場合、対象の資産について、将来得られる割引前キャッシュ・フローの総額と帳簿価額を比較し、このキャッシュ・フローの総額が帳簿価額を下回る場合、減損損失を認識する。
例えば、建設会社が保有する未使用の重機が、需要低下や技術の進化により今後の活用が見込めず、期待される収益が帳簿価額を下回る場合、その資産は減損の対象となる。このような状況では、回収可能額まで帳簿価額を減額し、減損損失を計上する。
【ポイント】
減損損失とは、固定資産の収益性が低下し、帳簿価額を回収できない場合に、その価値を適正に修正する会計処理です。目的は、企業の財務諸表に実態を正しく反映し、資産の価値を適切に評価することにあります。
減損の兆候がある場合、まず資産や資産グループごとに、将来得られる割引前キャッシュ・フローの総額と帳簿価額を比較します。このキャッシュ・フローが帳簿価額を下回る場合、減損損失を認識しなければなりません。
例えば、建設会社が保有する未使用の重機が、技術の進化により旧型となり、今後の使用予定がなく収益を生む可能性が低い場合、その資産は減損の対象となります。同様に、所有する建設資材の置き場としていた土地の市場価格が大幅に下落し、将来的な活用が見込めない場合も減損を認識する必要があります。
このように、減損損失を適切に計上することで、企業の資産価値を適正に評価し、財務の透明性を確保できます。
問2 減損処理後の会計処理を説明しなさい。(200字以内)
【解答例】(197字)
減損処理後は、減損損失を控除した帳簿価額を基に減価償却を行う。減損後の資産も、通常の資産と同様に耐用年数に応じて、毎期計画的・規則的に減価償却される。
また、減損損失の戻入れは認められないため、将来に資産の市場価値や収益性が回復した場合でも、減損処理後の帳簿価額は変更できない。
例えば、減損処理を行った建設機械は、たとえ中古市場で価格が上昇しても、減損後の帳簿価額で減価償却を継続する必要がある。
【ポイント】
減損処理を行った資産は、減損損失を控除した帳簿価額を基準として、耐用年数に応じた減価償却を継続します。目的は、減損後の資産の価値を適正に管理し、毎期の費用計上を正確に行うことです。
例えば、減損処理を行った建設機械は、その後も通常の減価償却ルールに従い、新たな帳簿価額を基準として償却を継続します。これにより、企業は資産の価値を適正に配分し、財務諸表の正確性を維持できます。
また、減損処理後の帳簿価額の増額(減損損失の戻入れ)は認められません。たとえ市場価格や収益性が回復しても、以前に認識した減損損失を取り消すことはできません。
例えば、減損処理を行った土地の価格が数年後に回復しても、再評価は行わず、減損処理後の帳簿価額のまま管理する必要があります。
このように、減損処理後も適切な減価償却を行い、帳簿価額の増額が認められない点を理解しておくことが重要です。
第23回
費用配分の原則に関する次の問に解答しなさい。各問とも指定した字数以内で記入すること。
問1 この原則の意味を説明しなさい。(200字以内)
【解答例】(199字)
費用配分の原則とは、資産の取得原価を、その資産の利用期間や消費期間に応じて計画的・規則的に費用として配分する考え方で、資産の効用が徐々に減少することを財務諸表に適切に反映するために行われる。
ただし、この原則はすべての資産に適用されるわけではなく、費用として配分される費用性資産にのみ適用される。例えば、建設機械の購入費用は耐用年数に応じて減価償却される一方、売掛金などの貨幣性資産には適用されない。
【ポイント】
費用配分の原則とは、資産の取得原価を、その資産が使用される期間や消費される期間にわたって計画的・規則的に費用として配分する考え方です。目的は、企業の収益と費用を適切に対応させ、財務諸表を正確に作成することにあります。
ただし、この原則が適用されるのは、「費用性資産」と呼ばれる、使用や時間の経過によって価値が減少する資産に限られます。例えば、建設業で使用するショベルカーやクレーン車の購入費用は、耐用年数に応じて減価償却し、各期に分割して費用計上します。一方、売掛金のような「貨幣性資産」には適用されません。
このように、費用配分の原則は、資産の効用が減少する期間に応じて適切に費用を計上することで、企業の経営成績を正しく表す役割を果たします。
問2 この原則が企業会計上重視される理由を説明しなさい。(300字以内)
【解答例】(276字)
費用配分の原則は、損益計算書と貸借対照表の両方に影響を与えるため、企業会計上の重要な原則とされている。
この原則に基づき、費用性資産への支出額を「当期の費用」として計上する部分と、「次期以降に繰り越す資産」とに配分する。例えば、建設会社が購入した大型クレーンの費用は、一度に全額費用とせず、耐用年数に応じて減価償却を行い、各期に適切に配分される。
この処理により、損益計算書では各期の利益を適正に計算し、貸借対照表では資産の価値を適切に表示できる。費用配分の原則を適用することで、財務報告の正確性が向上し、利害関係者が適切な経営判断を行うことが可能となる。
【ポイント】
費用配分の原則は、損益計算書と貸借対照表の両方に影響を与えるため、企業会計上の重要な原則とされています。
この原則では、費用性資産の支出額を「当期の費用」と「次期以降に繰り越す資産」に適切に配分することが求められます。例えば、建設会社がトンネル掘削用の特殊機械を購入した場合、購入費用を一度に費用計上せず、耐用年数に応じて減価償却を行い、毎期の損益計算に適正に反映させます。
この処理を行うことで、損益計算書では各期の利益が適切に計算され、貸借対照表では資産の価値が正しく表示されます。もし、購入時に全額を費用計上してしまうと、購入した年の利益が大きく減少し、翌年以降の利益が不当に大きくなるため、期間損益が適正に反映されません。
また、建設業では工事進行基準の適用により、工事原価を各期に適切に配分し、完成時ではなく進捗に応じて収益と対応させることが重要です。これにより、企業の財務情報が正しく表現され、利害関係者が適切な経営判断を行えるようになります。
第24回
「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」に基づいて次の問いに解答しなさい。各問ともに指定した字数以内で記入すること。
問1 当初の減価償却計画の決定において見積もった有形固定資産の耐用年数に変更が生じた場合、どのような会計処理を行えばよいか説明しなさい。(200字以内)
【解答例】(197字)
有形固定資産の耐用年数の変更は、会計上の見積りの変更に該当し、その影響は将来の会計期間にわたって反映される。そのため、変更時点の未償却残高を、新しい耐用年数に基づいて当期以降の減価償却費として計算し、遡及適用は行わない。
例えば、重機の使用状況を見直し、耐用年数を延長した場合、変更後の残存簿価を新しい耐用年数に基づいて減価償却する。この処理により、財務諸表の適正性が確保され、経営判断に役立つ。
【ポイント】
耐用年数の変更とは、有形固定資産の利用可能な期間を見直し、減価償却費の計算方法を調整することです。これは、会計上の見積りの変更に該当し、変更後の会計期間から適用されます。目的は、資産の使用実態を正確に反映し、財務諸表の信頼性を確保することにあります。
例えば、建設会社が保有するショベルカーの耐用年数を10年から15年に延長する場合、変更時点の未償却残高を新たな耐用年数で按分し、減価償却費を再計算します。この処理を行うことで、過去の会計処理を変更せず、今後の財務管理をより正確に行うことが可能となります。
また、耐用年数の変更は、当期以降の費用計上に影響を与えるため、企業の利益計画や資金繰りにも大きく関わる要素です。そのため、変更の際には適切な見積りと合理的な根拠が求められます。
問2 例えば、定率法から定額法への変更のように、減価償却方法を変更した場合の会計処理と、そのような会計処理を行う理由を説明しなさい。(300字以内)
【解答例】(285字)
減価償却方法の変更は、会計方針の変更に該当するが、その会計処理は会計上の見積りの変更と同様に行われるため、遡及適用は行わない。
例えば、定率法から定額法へ変更した場合、変更時点の未償却残高を、新しい耐用年数に基づく定額法で計算し、当期以降の減価償却費を算出する。過去の減価償却費は修正せず、変更後の方法で処理を継続する。
このような処理を行う理由は、減価償却方法の変更が、固定資産の経済的利益の消費パターンの見直しに伴うものであり、会計上の見積りの変更と区別が難しいためである。減価償却方法を適切に変更することで、費用の配分を最適化し、財務諸表の正確性を保つことが求めらる。
【ポイント】
減価償却方法の変更とは、固定資産の価値を費用として配分する計算方法を見直すことです。例えば、定率法から定額法への変更は、初期の費用負担を軽減し、各期の費用配分を均等化する目的で行われます。
この変更は会計方針の変更に該当しますが、その処理は会計上の見積りの変更と同様に扱われるため、過去の減価償却費は修正せず、変更時点の帳簿価額を基に新しい方法で償却を継続します。
例えば、建設会社が使用するタワークレーンの減価償却方法を定率法から定額法に変更した場合、変更時点の未償却残高を新しい耐用年数で均等に償却し、今後の費用計上をより安定的に行うことが可能となります。
この処理を行う理由は、減価償却方法の変更が、資産の経済的利益の消費パターンの見直しに伴うものであり、会計上の見積りの変更と区別が難しいためです。建設業では、設備の使用状況やプロジェクトの進行に応じて減価償却方法を適切に選択することで、財務管理の精度を高めることが求められます。
このように、耐用年数の変更と減価償却方法の変更は、それぞれ異なる目的を持ちながらも、企業の財務状況を適正に反映し、経営判断の基盤となる会計処理であることを理解しておくことが重要です。
第25回
偶発債務に関する次の問に解答しなさい。各問ともに指定した字数以内で記入すること。
問1 偶発債務とは何かを説明しなさい。(200字以内)
【解答例】(190字)
偶発債務とは、現時点では法律上の債務ではないが、将来の特定の条件が発生した場合に、債務として確定する可能性があるものを指す。
建設業では、工事保証(施工後の瑕疵補修義務)や下請け業者の債務保証などが該当する。その他、割引手形の不渡りリスク、係争中の訴訟、契約違反による違約金の発生なども偶発債務に含まれる。
これらは、発生の可能性や金額の確実性によって、財務諸表での取り扱いが異なる。
【ポイント】
偶発債務とは、現時点では負債として確定していないが、将来特定の条件が発生した場合に、債務となる可能性があるものを指します。目的は、企業の財務状況を適正に開示し、利害関係者に正確な情報を提供することにあります。
建設業では、工事保証、下請業者への債務保証、契約違反による違約金の支払いリスクなどが偶発債務に該当します。例えば、施工した建物に重大な瑕疵が発生し、修繕費用が発生する可能性がある場合、現時点では支払い義務は確定していませんが、将来的に負債となる可能性があるため、偶発債務として認識する必要があります。
また、建設資材を購入する際に手形を利用し、それを割引・譲渡した場合も、手形が不渡りになった際に企業が支払義務を負うため、偶発債務となります。こうしたリスクを適切に管理し、財務諸表で適正に開示することが求められます。
問2 偶発債務の会計上の取り扱いについて説明しなさい。(300字以内)
【解答例】(295字)
偶発債務は、発生の可能性と金額の見積もりの正確性に応じて、財務諸表での処理方法が異なる。
① 注記のみ行う場合
発生の確率が低く、また金額を正確に見積もれない場合は、財務諸表の注記として開示する。例えば、割引手形の額や従業員に対する債務保証額など。
② 引当金として計上する場合
発生の可能性が高く、かつ金額を合理的に見積もれる場合は、貸借対照表の負債の部に引当金を計上する。例えば、施工不良による損害補償費用が見込まれる場合、「工事保証引当金」や「損害補償損失引当金」として計上する。
このように、偶発債務は企業の財務リスクを正確に反映し、利害関係者に適切な情報を提供するために適切な処理が求められる。
【ポイント】
偶発債務は、発生の可能性と金額の見積もりの正確性に応じて、財務諸表での処理方法が異なります。目的は、企業の財務リスクを適切に評価し、財務諸表の透明性を確保することです。
① 注記のみ行う場合
偶発債務の発生の可能性が低く、また金額を正確に見積もれない場合は、財務諸表の注記として開示します。例えば、工事保証のうち、過去の実績から補修が発生する確率が低い場合や、係争中の訴訟で判決の行方が不確定な場合には、負債計上せず、財務諸表の注記欄に記載します。
② 引当金として計上する場合
発生の可能性が高く、金額を合理的に見積もれる場合は、貸借対照表の負債として引当金を計上します。例えば、施工不良が発生し、補修費用がかかることが確実な場合は「工事保証引当金」や「損害補償損失引当金」として計上します。
建設業では、大型プロジェクトや長期契約が多いため、工事中や完成後のリスクを適切に評価し、適正な会計処理を行うことが、企業の信頼性向上につながります。
第26回
企業会計原則の一般原則の3では、「資本取引と損益取引とを明瞭に区別し、特に資本剰余金と利益剰余金とを混同してはならない。」と述べている。この原則に関連して次の問いに解答しなさい。各問ともに指定した字数以内で記入すること。
問1 この原則が企業会計上重視される理由を説明しなさい。(300字以内)
【解答例】(243字)
この原則が重要視されるのは、企業会計の目的が正確な期間利益の算定と適正な資本維持にあるためである。
資本取引は、株主からの出資や自己株式の取得など、企業の資本そのものの増減を伴う取引であり、損益取引は、事業活動による収益や費用の発生を通じた利益の変動を指す。両者は性質が異なるため、明確に区別しないと、企業の経営成績や財務状態が適正に表示されなくなる恐れがある。
そのため、資本取引と損益取引を厳格に区別することで、財務諸表の正確性を保ち、利害関係者に適切な情報を提供することが求められる。
【ポイント】
資本取引と損益取引は、企業の財務活動と経営活動という異なる性質を持つため、明確に区別することが必要です。目的は、企業の実際の経営成績や財務状態を正確に示し、利害関係者が適切な判断をできるようにすることにあります。
資本取引とは、株主からの出資や自己株式の取得など、企業の資本そのものの増減を伴う取引です。一方、損益取引は、企業の営業活動によって発生する収益や費用の動きを指します。これらを混同すると、企業の本当の経営成果が分かりにくくなり、財務諸表が誤解を招くものになる恐れがあります。
例えば、建設会社が増資によって得た資金を、利益剰余金として計上した場合、本来の営業利益とは関係のない資本調達が利益のように見えてしまいます。これにより、企業の収益力を誤って評価される可能性があるため、適正な財務管理の観点からも区別が求められます。
問2 この原則に反する例外があれば、具体的に一つあげて説明しなさい。(200字以内)
【解答例】(174字)
この原則に反する例外として、繰越損失を補填するための資本準備金や資本金の取り崩しがある。
通常、繰越損失は、将来の利益によって補填されるべきものだが、過去の損失が大きく、利益での補填が困難な場合、資本準備金や資本金を取り崩して補填することが認められている。
この処理は特例的に認められているが、本来の資本維持の原則からは慎重に扱うべきものとされている。
【ポイント】
原則として、資本取引と損益取引は区別されるべきですが、例外的に資本準備金や資本金を取り崩して、繰越損失を補填することが認められる場合があります。
本来、繰越損失は将来の利益によって補填されるべきものですが、大きな損失が発生し、企業の財務健全性を維持するために、資本金や資本準備金を取り崩して補填するケースがあります。
例えば、建設業で受注した大規模プロジェクトが採算割れし、多額の損失を計上した場合、次年度以降の経営を安定させるために、資本準備金を取り崩して繰越損失を補填することがあるのが代表的な例です。
この処理は、資本取引と損益取引の混同となるため、本来の原則からは逸脱しますが、企業の財務安定を図るために特例として認められています。ただし、資本の本来の役割を損なう可能性もあるため、慎重な判断が求められます。
第27回
「金融商品に関する会計基準」に基づいて、有価証券の評価に関する次の問に解答しなさい。各問ともに指定した字数以内で記入すること。
問1 売買目的有価証券とその他有価証券、それぞれについて、期末時点の評価方法および評価差額が発生した場合の処理方法を説明しなさい。(250字以内)
【解答例】(218字)
①売買目的有価証券
売買目的有価証券は、短期間の売買を目的とするため、期末時点で時価評価を行う。評価差額は当期の損益として処理し、貸借対照表には時価で計上する。
②その他有価証券
その他有価証券は、長期保有を目的とするため、期末時点で時価評価を行う。評価差額の処理方法には次の2つがある。
A.時価が取得原価を上回る場合は純資産の部に計上し、時価が取得原価を下回る場合は当期の損失として処理
B.評価差額の合計額を純資産の部に計上(洗い替え方式)
【ポイント】
有価証券の評価は、保有目的に応じて異なる方法を適用することで、企業の財務状況を適正に表すことが目的です。
売買目的有価証券は、短期間の売買による利益を目的とするため、期末時点で時価評価を行い、評価差額を当期の損益に計上します。これにより、市場価値の変動が即座に財務諸表に反映され、投資家や利害関係者が企業の資産状況を把握しやすくなります。
例えば、建設会社が余剰資金を運用するために取得した短期保有の上場株式は、売買目的有価証券に該当します。これらは、取得後すぐに売却する可能性が高いため、評価差額を損益計上し、資産価値を正確に反映します。
一方、その他有価証券は、長期保有を目的とするため、期末時点で時価評価を行い、評価差額を純資産の部に計上します。ただし、時価が取得原価を下回り、回復の見込みがない場合は、減損処理を行い損失として計上します。
例えば、建設会社が将来的な業務提携を目的として取得した取引先企業の株式は、その他有価証券に分類されます。短期的な価格変動で経営判断を左右されないよう、評価差額を純資産の部に計上し、長期的な視点で管理することが求められます。
問2 問1で答えた処理方法がそれぞれ採用される理由を説明しなさい。(250字以内)
【解答例】(227字)
①売買目的有価証券
売買目的有価証券は、短期間での売却を前提としており、企業の財務活動の成果が時価に直結するため、評価差額を当期の損益として計上する。
②その他有価証券
その他有価証券は、売買目的有価証券と子会社株式・関連会社株式の中間的な性格を持つため、評価差額を純資産の部に計上する。ただし、時価が取得原価を下回る場合は、実質的な損失と判断し、当期の損益として処理する。この方法により、一時的な時価変動による利益や損失を抑えつつ、財務の安定性を確保できる。
【ポイント】
売買目的有価証券は、短期間での売却を前提としているため、時価の変動が直接企業の資産価値に影響を与えます。そのため、評価差額を当期の損益として処理し、財務諸表に即時反映させることで、投資家や利害関係者に適切な情報を提供します。
例えば、建設会社が一時的な資金運用のために購入した証券が値上がりした場合、その評価益を当期の利益として計上することで、実際の資産価値を明確に示すことができます。
一方、その他有価証券は、長期保有を前提とするため、一時的な時価変動をそのまま損益に反映すると、経営成績が不安定になる可能性があります。そのため、評価差額は純資産の部に計上し、直接損益に影響を与えない方法を採用しています。
ただし、時価が取得原価を大きく下回り、回復の見込みがない場合には、資産価値の実質的な減少と判断し、損失として計上します。例えば、取引先企業の経営が悪化し、その株式の価値が大幅に下落した場合、減損処理を行い、損失を当期の損益として計上する必要があります。
このように、有価証券の評価方法は、その保有目的に応じて異なる処理を行うことで、企業の財務状況を適正に表し、利害関係者に正確な情報を提供するために設定されています。
第28回
引当金に関する次の問に解答しなさい。各問ともに指定した字数以内で記入すること。
問1 引当金を計上する目的とその要件について、未払費用との違いにも触れながら説明しなさい。(200字)
【解答例】(200字)
引当金は将来の特定の費用や損失に備え、期間利益を正確に計算するために計上する負債で、次の要件を満たす必要がある。
①将来の費用・損失が特定されていること
②発生原因が当期以前の事象にあること
③発生の可能性が高いこと
④金額を合理的に見積もれること
未払費用は、すでに発生が確定しているが支払が翌期以降となる費用であるのに対し、引当金は将来の発生が確実ではないものの、見積もりに基づき事前に計上する点で異なる。
【ポイント】
引当金は、将来の特定の費用や損失に備え、適正な期間損益計算を行うために計上する負債です。目的は、財務諸表の正確性を高め、企業の実態を適切に反映することにあります。
引当金を計上するには、以下の4つの要件を満たす必要があります。
- 将来の特定の費用・損失であること(例:工事補償費用)
- 発生原因が当期以前にあること(例:当期に完成した工事に関連する補修費)
- 発生の可能性が高いこと(例:保証期間内の修繕が発生する見込み)
- 金額を合理的に見積もれること(例:過去の工事実績から算出)
未払費用はすでに発生が確定しているが、支払いが翌期以降になる費用であり、発生が確定していないが将来発生が見込まれる費用を計上する引当金とは異なります。
例えば、工事完成後の補修費を見積もって計上するのが引当金であり、工事完了後に確定した未払いの下請け業者への支払いが未払費用です。
問2 完成工事補償引当金と工事損失引当金について説明し、両者の引当金としての性質の違いを説明しなさい。(300字)
【解答例】(256字)
①完成工事補償引当金
工事の引き渡し後、保証期間内の無償補修に備え、工事収益に対して適正に費用負担を行うために計上する引当金。
②工事損失引当金
工事原価総額が工事収益総額を超える可能性が高く、かつ金額を合理的に見積もれる場合、その超過額を当期の損失として計上するための引当金。
③両者の違い
完成工事補償引当金は、工事完了後の補償費用に備える「債務性引当金」であり、発生時期や金額が不確定です。一方、工事損失引当金は、未完成工事に対する将来の損失を事前に計上する「非債務性引当金」であり、発生が確実である点が異なります。
【ポイント】
工事に関する引当金には、完成工事補償引当金と工事損失引当金の2つがあり、それぞれ異なる目的で計上されます。
①完成工事補償引当金
建設業では、工事完了後に発生する可能性がある補修費用に備えるため、完成時に一定額を計上します。これは、施工した建物や設備に保証期間内の瑕疵が発生し、無償補修が必要になるリスクに対応するものです。例えば、新築マンションの引き渡し後に発生する可能性のある壁のひび割れや設備の不具合の補修費用をあらかじめ見積もり、負債として計上します。
②工事損失引当金
進行中の工事において、契約時の見積もりを超える損失が確実に発生する場合、その損失を当期の費用として計上するための引当金です。例えば、長期プロジェクトにおいて、資材費の高騰や工期の遅延によって工事原価が大幅に増加し、赤字が確実になった場合、当期の損失として計上します。
③両者の違い
完成工事補償引当金は、工事完了後の補償費用に備える「債務性引当金」であり、将来の支払いが確実ではないものの発生する可能性が高い費用を負債として計上します。一方、工事損失引当金は、未完成工事に対する確実な損失を事前に計上する「非債務性引当金」であり、将来の赤字を適切に反映するために計上されます。
このように、どの費用をどの時点で計上すべきかを適切に判断し、工事の進行状況や財務状況を正しく反映することが重要です。
第29回
企業会計原則における「正規の簿記の原則」と「重要性の原則」に関する次の問に解答しなさい。各問ともに指定した字数以内で記入すること。
問1 「正規の簿記の原則」と「重要性の原則」の内容と、2つの原則の関係を説明しなさい。(300字)
【解答例】(241字)
正規の簿記の原則は、企業の取引を正確に記録し、それに基づいて財務諸表を作成することを求める原則であり、記録には以下の3つの要件が求められる。
①記録の網羅性
②記録の検証可能性
③記録の秩序性
一方、重要性の原則は、重要な項目には厳密な会計処理を適用しつつ、重要性が乏しい項目については簡便な処理を認める原則である。
この2つの原則の関係として、正規の簿記の原則は網羅的な記録を求めるが、すべての取引を厳密に記録する必要はなく、重要性の原則に基づいた簡便な処理も正規の簿記として認められる。
【ポイント】
正規の簿記の原則は、企業の取引を正確に記録し、それに基づいて財務諸表を作成することを求める原則です。この原則では、取引の網羅性(すべての取引を記録する)、検証可能性(証拠に基づいて確認できる)、秩序性(一貫した方法で整理されている)の3つが求められます。
一方、重要性の原則は、重要な項目には厳密な会計処理を求める一方で、重要性が低い項目については簡便な処理を認める原則です。例えば、建設会社が購入した高額な重機は資産計上し、耐用年数に応じて減価償却する必要がありますが、少額の工具や測定機器については、財務諸表全体に影響が少ないため、消耗品費として即時費用処理することが認められます。
この2つの原則は矛盾するものではなく、正規の簿記の原則は網羅的な記録を求めつつ、重要性の原則に基づく簡便な処理も「正規の簿記」として認めています。そのため、企業は合理的な判断のもと、財務諸表の適正性を保ちつつ、業務負担を軽減することができます。
問2 「重要性の原則」適用の結果、簿外資産や簿外負債が生じる事があるが、それが認められる根拠を明らかにしなさい。(200字)
【解答例】(196字)
企業会計の目的は、企業の財務状況を正しく示し、利害関係者の判断を誤らせないことにある。そのため、重要性が低いものについては、簡便な処理が認められ、結果として簿外資産や簿外負債が発生する。
例えば、少額の事務用品を資産計上せず、一括で消耗品費として処理する場合、厳密には簿外資産が発生する。このような処理が許容される根拠は、会計処理の負担を軽減し、実務上の効率性を確保する「計算の経済性」にある。
【ポイント】
企業会計の目的は、企業の財務状況を正しく示し、利害関係者の判断を誤らせないことにあります。そのため、重要性が低い取引については、厳密な処理を省略し、結果として簿外資産や簿外負債が生じることが許容される場合があります。
例えば、建設会社が現場作業で使用する少額のヘルメットや手袋などの安全用品を購入した場合、それらを個別に資産計上すると事務負担が増えるため、一括して消耗品費として費用計上することが認められます。このような処理を行うことで、業務の効率化を図ることができます。
このような簡便な処理が認められるのは、財務諸表の全体的な適正性が損なわれない範囲で、実務上の負担を軽減する「計算の経済性」が重要視されているためです。簿外資産や簿外負債が発生する場合でも、それが企業の財務状況を誤解させるものでなければ、合理的な処理として認められます。
第30回
退職給付会計に関する次の問に解答しなさい。各問ともに指定した字数以内で記入すること。
問1 退職給付債務について、退職給付見込額に言及したうえで説明しなさい。(300字)
【解答例】(251字)
退職給付債務とは、従業員が一定の期間にわたり労働を提供したことに基づき、退職後に受け取る退職給付のうち、認識時点までに発生していると認められる金額を指す。
この退職給付債務を計算するための基礎となるのが退職給付見込額で、従業員が将来受け取ると見込まれる退職金や年金の総額であり、昇給率や退職率などの要因を考慮して算定される。
退職給付債務は、この退職給付見込額をもとに、「期間定額基準」または「給付算定式基準」により、当期までに企業が負担すべき金額を計算し、割引計算を行って現時点の金額に直したものである。
【ポイント】
退職給付債務とは、企業が従業員に対して将来支払う退職給付のうち、現時点までに発生していると認められる金額を指します。これは、財務諸表に適切に負債として計上し、企業の財務状況を正確に示すために重要です。
この退職給付債務を計算するための基礎となるのが退職給付見込額です。退職給付見込額は、企業が従業員に退職時点で支払うと見込まれる退職金や年金の総額であり、以下の要因を考慮して算定されます。
- 昇給率(将来の給与水準の変動)
- 退職率(途中退職する可能性)
- 平均勤続年数(退職金額に影響)
算出した退職給付見込額をもとに、「期間定額基準」または「給付算定式基準」により、当期までに企業が負担すべき金額を計算し、さらに将来支払う金額を現在価値に割り引く計算(割引計算)を行います。
例えば、建設会社が従業員の退職金を適正に見積もり、財務諸表に負債として計上することで、将来の資金負担を正確に把握できるようになります。これにより、企業の財務健全性を維持し、適正な利益計算を行うことが可能になります。
問2 個別財務諸表と連結財務諸表との間で異なる処理を説明しなさい。(200字)
【解答例】(191字)
退職給付会計では、個別財務諸表と連結財務諸表で未認識の数理計算差異や未認識過去勤務費用の扱いが異なる。
個別財務諸表では、これらの項目はオフバランス(貸借対照表に計上しない)が、連結財務諸表ではオンバランス(貸借対照表に計上)する。
ただし、これが期間利益に直接影響を与えないように、税効果を考慮した上で、その他の包括利益として認識し、純資産の部の「その他の包括利益累計額」に計上する。
【ポイント】
退職給付債務の会計処理は、個別財務諸表と連結財務諸表で異なる扱いをされる項目があります。特に、未認識の数理計算差異や未認識過去勤務費用の取り扱いが異なります。
個別財務諸表では、これらの項目はオフバランス(貸借対照表に計上しない)ですが、連結財務諸表ではオンバランス(貸借対照表に計上)されます。これは、連結財務諸表がグループ全体の財務状況を正確に示すことを目的としているためです。
ただし、この処理が期間利益に直接影響を与えないように、税効果を考慮した上で、その他の包括利益として認識し、純資産の部の「その他の包括利益累計額」に計上します。
例えば、建設会社の親会社と子会社で異なる退職給付制度がある場合、連結財務諸表では、各子会社の退職給付制度を統一的に調整し、グループ全体の負債を適切に反映する必要があります。これにより、投資家や取引先などの利害関係者に、企業グループ全体の財務状況を正確に伝えることが可能になります。
第31回
費用概念に関する以下の問に答えなさい。各問ともに指定した字数以内で記入すること。
問1 広義および狭義それぞれの立場における費用概念を説明しなさい。(200字)
【解答例】(176字)
広義の費用概念は、資本の払戻や修正を除く、あらゆる所有者持分の減少を費用とみなす考え方である。これには、通常の事業活動に伴う費用だけでなく、災害や盗難などの非経常的な要因による損失も含まれる。
一方、狭義の費用概念は、財や用益の生産に直接関係する減少分のみを費用とする考え方である。この場合、災害や盗難による損失は、費用ではなく「損失」として区別される。
【ポイント】
費用には、広義の費用と狭義の費用の2つの考え方があります。
広義の費用は、企業の資本の減少要因全体を指し、通常の営業活動による費用だけでなく、災害や盗難などの突発的な損失も含める考え方です。例えば、建設会社が保有する資材倉庫が火災で焼失し、資材が失われた場合、その損害額も広義の費用に含まれます。
一方、狭義の費用は、企業の収益を得るために直接必要となる費用のみを対象とし、損益計算書に計上される売上原価や販売費、管理費などを含みますが、突発的な損失は含みません。例えば、建設会社が橋梁工事を行う際に発生する資材費、労務費、重機の減価償却費などが狭義の費用に該当します。
このように、費用の範囲をどこまで含めるかによって、企業の財務状況の見え方が変わるため、それぞれの概念を理解しておくことが重要です。
問2 経営成績を判断する為の期間利益の計算において重視されるのは、広義と狭義どちらの費用概念か、理由と共に答えなさい。(300字)
【解答例】(271字)
経営成績を判断する期間利益の計算では、狭義の費用概念が重視される。
期間利益は、特定の期間に企業が得た収益から、それに対応する費用を控除して計算される。そのため、収益と直接対応する狭義の費用を考慮することが、経営成績を適正に評価する上で重要となる。
例えば、建設会社が請け負った工事の収益を計上する際、収益に対応する資材費・労務費・外注費などの工事原価を適切に計上することで、実際の利益を正確に把握できる。
広義の費用概念には、災害や盗難などの偶発的な損失も含まれるが、これらは収益の獲得活動とは直接関係がないため、期間利益の計算には適していない。
【ポイント】
企業の経営成績を適正に判断するための期間利益の計算では、狭義の費用概念が重視されます。
期間利益は、一定期間の収益から、それに対応する費用を差し引いて算出されるものです。この際、費用として計上されるのは、収益の獲得に直接関連するものに限定される必要があります。
例えば、建設会社がダム建設工事を請け負った場合、その工事にかかった資材費・労務費・外注費などの工事原価が期間利益の計算における費用となります。この費用を適切に計上することで、工事によってどれだけの利益が得られたのかを正確に判断できます。
一方、地震や火災による資材の損失などの偶発的な損失を費用として含めてしまうと、本来の工事による収益と費用の対応関係が崩れ、経営成績を正しく評価できなくなります。そのため、損失と費用を明確に区別し、収益と直接対応する費用のみを計上する狭義の費用概念が、期間利益の計算には適しているのです。
このように、企業の財務状況を適切に把握し、経営判断を正しく行うためには、費用の範囲を明確に定め、期間利益の計算においては狭義の費用概念を適用することが重要となります。
第32回
工事進行基準に関する以下の問に答えなさい。各問ともに指定した字数以内で記入すること。
問1 工事進行基準を説明するとともに、この基準の適用要件を答えなさい。(200字)
【解答例】(151字)
工事進行基準とは、会計期末に工事の進捗度を見積もり、その進捗に応じて当期の工事収益を計上する方法である。
工事進行基準を適用するには、以下の要件を満たす必要がある。
① 工事収益総額を合理的に見積もることができる
② 工事原価総額を合理的に見積もることができる
③ 決算日時点での工事進捗度を信頼性をもって把握できる
【ポイント】
工事進行基準は、長期間にわたる工事契約において、工事の進捗に応じて収益を計上する方法です。目的は、実際の工事の進捗状況を財務諸表に適切に反映し、期間損益を正しく認識することにあります。
例えば、建設会社が大型の橋梁工事を請け負い、工期が3年に及ぶ場合、完成基準(工事完成時に全額収益計上)を採用すると、3年間の売上がゼロとなり、実態と異なる財務諸表となってしまいます。これを避けるために、工事の進捗に応じた収益計上を行い、各会計期間に適正な売上を計上するのが工事進行基準です。
適用要件として、①工事収益総額、②工事原価総額、③決算日時点の工事進捗度が合理的に見積もれることが求められます。これらの見積もりが信頼できる場合に限り、工事進行基準を適用し、財務諸表をより正確にすることが可能となります。
問2 総額請負契約、原価補償契約、単価清算契約それぞれについて、工事進行基準による工事収益額の測定方法を説明しなさい。(300字)
【解答例】(277字)
工事進行基準による工事収益額の測定方法は、契約形態によって異なる。
①総額請負契約
契約時に工事代金の総額が決まっているため、工事収益額は、工事収益総額(契約金額)に工事進捗度を乗じて計算する。
②原価補償契約
工事原価に一定の利益を加えて請負代金が決まるため、工事収益額は各期の実際工事原価に契約上の利益率を加算して計算する。
③単価清算契約
施工単価が事前に決まり、施工量に応じて収益を計上するため、工事収益額は、当期の完成作業量に単位請負収益額を乗じて計算する。
このように、契約形態に応じた適切な収益認識方法を用いることで、財務諸表の正確性を保つことができる。
【ポイント】
工事進行基準では、契約の種類によって工事収益の計算方法が異なります。それぞれの契約形態に適した測定方法を理解することが重要です。
①総額請負契約
契約時に工事代金の総額が確定しているため、工事収益額は「契約金額 × 工事進捗度」で計算します。
例えば、契約金額10億円のトンネル工事で進捗率が50%なら、当期の工事収益は5億円となります。
②原価補償契約
実際にかかった工事原価に一定の利益を加算する方式のため、工事収益額は「実際工事原価 + 一定の利益率」で計算します。
例えば、当期の工事原価が6億円で、契約上の利益率が20%なら、工事収益は7.2億円(6億円×1.2)となります。
③単価清算契約
施工単価があらかじめ設定され、施工量に応じて収益を計上するため、「出来高 × 単価」で収益を算定します。
例えば、道路舗装工事で1m²あたり10万円の単価が設定され、当期に6,000m²施工した場合、工事収益は6億円となります。
このように、契約形態によって収益の算定方法が異なるため、それぞれの契約に適した方法で工事収益を計上することが、適正な財務報告のために重要です。
第33回
偶発債務に関する以下の問に答えなさい。各問ともに指定した字数以内で記入すること。
問1 問偶発債務とは何かを説明するとともに、その発生原因を例示しなさい。(200字)
【解答例】(186字)
偶発債務とは、現時点では負債として確定していないが、将来特定の条件が発生した場合に、法律上の債務となる可能性のあるものを指す。
発生原因としては、受取手形の割引や裏書譲渡や子会社への債務保証などが考えられる。例えば、建設会社が取引先からの支払いを受取手形で受け取り、それを割引または裏書譲渡した場合、支払人が倒産すると、企業が支払い義務を負うため、これが偶発債務に該当する。
【ポイント】
偶発債務は、現時点では負債として確定していないが、将来特定の条件が発生すると負債になる可能性のあるものを指します。目的は、企業の潜在的なリスクを財務諸表で適切に開示し、利害関係者に正確な情報を提供することです。
建設業では、以下のような事例が偶発債務に該当します。
- 受取手形の割引や裏書譲渡
→ 取引先が手形の支払いを履行できない場合、建設会社が支払義務を負う可能性がある。 - 子会社や関連会社への債務保証
→ 例えば、グループ会社が大型の建設機械をリース契約する際に、親会社が保証をしている場合、債務者が支払不能になると親会社が負担することになる。 - 施工後の瑕疵保証
→ 例えば、大規模マンションの施工後、基礎部分に構造的な欠陥が見つかった場合、保証期間内なら修繕費を負担する義務が生じる可能性がある。
このように、偶発債務は通常の負債とは異なり、将来の出来事次第で発生するため、その性質を理解し、適切に管理することが重要です。
問2 偶発債務は、その発生確率の高低に応じて財務諸表における表示が異なっている。それぞれの場合における表示方法を説明しなさい。(300字)
【解答例】(298字)
① 発生の可能性が低く、金額を正確に見積もれない場合→ 財務諸表の注記として開示。
「割引手形 〇〇円」「子会社への債務保証 〇〇円」といった形で注記される。発生の可能性が低いため、負債として計上せず、情報提供のみ行う。
② 発生の可能性が高く、金額を合理的に見積もれる場合→ 引当金を計上し、貸借対照表の負債の部に計上
取引先の倒産が確実視され、裏書譲渡した手形の支払い義務が発生しそうな場合、「債務保証損失引当金」や「損害補償損失引当金」として計上する。
このように、偶発債務はリスクの程度に応じて、財務諸表への記載方法を変えることで、利害関係者に適切な情報を提供し、企業の財務健全性を明確に示すことが重要となる。
【ポイント】
偶発債務は、発生の可能性と金額の見積もりの正確性によって、財務諸表での表示方法が異なります。
① 発生の可能性が低く、金額が不確定な場合
→ 貸借対照表には計上せず、注記として開示
例えば、建設会社が受取手形を裏書譲渡したが、取引先が倒産する可能性が低い場合、財務諸表の注記に「割引手形〇〇円」などと記載します。
② 発生の可能性が高く、金額を合理的に見積もれる場合
→ 引当金を計上し、貸借対照表の負債の部に計上
例えば、施工した橋梁に重大な欠陥が見つかり、保証期間内の補修が避けられない場合、見積もり可能な修繕費を「工事保証引当金」として計上します。
このように、偶発債務の会計処理は、企業のリスク管理と財務の透明性確保の観点から、発生確率に応じた適切な処理が求められます。特に建設業では、長期プロジェクトや施工後の保証リスクが関係するため、財務諸表への適切な反映が重要です。
第34回
長期前払費用と繰延資産に関する以下の問に答えなさい。各問ともに指定した字数以内で記入すること。
問1 問両者の性質上の類似点と相違点を答えなさい。(250字)
【解答例】(221字)
類似点:
長期前払費用と繰延資産は、どちらもすでに支出が完了しているものの、棚卸資産と異なり換金性が低い、または換金性を持たない点で共通している。これらの支出は、発生した時点で費用として処理せず、将来の会計期間にわたって配分する必要があるという性質を持つ。
相違点:
長期前払費用は、まだ対価となる役務を受け取っておらず、「未消費の原価」として扱われる。一方、繰延資産は、すでに役務を受け取って消費済みの支出であり、その本質は「費消済原価」である。
【ポイント】
長期前払費用と繰延資産は、どちらもすでに支出が完了しているものの、その効果が将来に及ぶため、一度に費用計上せずに期間配分するという共通点があります。これは、企業の財務状況を適切に反映し、期間損益を正しく計算するためです。
しかし、両者は役務の受け取り方や消費のタイミングによって性質が異なります。
- 長期前払費用は、まだ役務を受け取っていない「未消費の原価」です。例えば、建設会社が工事現場の仮設事務所の賃料を3年分前払いした場合、毎年の使用に応じて費用として計上します。
- 繰延資産は、すでに役務を受け取り消費した「費消済原価」ですが、その効果が将来も継続するため、一度に費用処理せず期間配分します。例えば、建設会社が新規事業のために多額の広告宣伝費を支払った場合、その効果が数年続くと見込まれるため、繰延資産として計上し、数年間で償却します。
このように、長期前払費用は「まだ消費していない支出」、繰延資産は「すでに消費したが効果が続く支出」という点で異なることを押さえておくと、会計処理の考え方が明確になります。
問2 問両者の会計処理上の類似点と相違点を答えなさい。(250字)
【解答例】(247字)
類似点:
どちらも支出の期間配分基準として「時間」を適用し、一定の期間にわたって費用化する点で共通する。支出時に一括費用処理するのではなく、複数の会計期間にわたって規則的に費用として計上することが求められる。
相違点:
長期前払費用は、原則として資産計上が強制され、契約期間や使用期間に応じて規則的に費用化される。一方、繰延資産は、企業の判断により繰延経理するかどうかを選択できる点が異なり、償却期間は、支出の効果が発現する期間を明確に予測しづらいため、人為的に定められ、早期償却が求められる特徴がある。
【ポイント】
長期前払費用と繰延資産の会計処理の違いを理解するポイント
長期前払費用と繰延資産は、ともに一定の期間にわたって費用配分する点で共通しています。これは、支出の効果を適切に会計期間に対応させ、企業の財務状況を適正に示すためです。
しかし、処理のルールには違いがあります。
- 長期前払費用は、原則として資産計上が強制され、契約期間や使用期間に基づいて規則的に費用配分されます。例えば、建設会社が工事用の資材倉庫を5年契約で借り、その賃料を一括前払いした場合、5年間にわたって均等に費用化します。
- 繰延資産は、資産計上するかどうかが企業の判断に委ねられており、償却期間も人為的に決められる点が異なります。例えば、建設会社が新規事業のために支出した開業費は、5年以内の範囲で企業が任意に償却方法を選択できます。
また、長期前払費用は通常、契約に基づく支払いに関連するため、必ず定められた期間内で均等に費用化されますが、繰延資産は支出の効果を見極めながら償却方法を調整することができる点も大きな違いです。
このように、長期前払費用は契約に基づき機械的に費用化されるのに対し、繰延資産は企業の判断による柔軟な処理が認められるという点を理解しておくことが重要です。
第35回
「金融商品に関する会計基準」に基づいて、有価証券の評価に関する次の問に解答しなさい。各問ともに指定した字数以内で記入すること。
問1 問売買目的有価証券、満期保有目的の債券、子会社株式および関連会社株式、その他有価証券という種類の有価証券について、貸借対照表計上時の評価方法ならびに評価差額が発生する場合の処理方法をそれぞれ説明しなさい。(300字)
【解答例】(285字)
① 売買目的有価証券
短期間の売買差益を目的とするため、貸借対照表には時価で計上し、評価差額は当期の損益として処理する。
② 満期保有目的の債券
償還期限まで保有することを前提とするため、取得原価で評価する。ただし、購入時の金額と債券額面の差額が金利調整とみなされる場合は、償却原価法を適用して評価する。
③ 子会社株式および関連会社株式
経営支配や影響力の行使が目的のため、取得原価で評価し、時価の変動は反映しない。
④ その他有価証券
長期投資を目的とするため、時価で評価するが、評価差額は純資産の部に計上する。例えば、建設会社が取引先企業の株式を長期保有する場合、この方法が適用される。
【ポイント】
有価証券の評価方法は、保有目的に応じて適切な財務報告を行うために異なる処理が求められます。企業が有価証券をどのような目的で保有しているかによって、時価を反映するか、取得原価で評価するかが決まるため、それぞれの違いを理解することが重要です。
① 売買目的有価証券
短期間の売買益を目的としているため、時価評価を行い、評価差額は当期の損益に計上します。
例:建設会社が余剰資金を短期運用のために証券市場で株式を購入した場合、時価の変動が財務成績に直結するため、この方法を適用します。
② 満期保有目的の債券
満期まで保有することを前提としているため、時価の変動に影響されず、取得原価で評価します。ただし、購入時の価格と額面の差が金利調整とみなされる場合、償却原価法を適用します。
例:建設会社が設備投資資金の準備のために、満期5年の社債を取得した場合、満期までの保有が前提となるため、時価評価は不要です。
③ 子会社株式および関連会社株式
経営支配や影響力を行使する目的で保有するため、時価の変動は業績に直接関係がなく、取得原価で評価します。
例:建設会社が協力会社の経営権を確保するために株式を取得した場合、売却目的ではないため、取得原価で評価します。
④ その他有価証券
投資目的で保有するが、売買目的とは異なるため、時価評価を行うものの、評価差額は当期の損益には計上せず、純資産の部に計上します。
例:建設会社が長期的な取引関係を維持するために取引先の株式を取得した場合、売却を前提としないため、評価差額は純資産に計上します。
問2 問1で答えた処理方法が採用される理由を説明しなさい。(200字)
【解答例】(196字)
満期保有目的の債券と子会社株式・関連会社株式は、売却を目的としていないため、時価の変動を財務活動の成果とはみなさない。そのため、取得原価をもって評価する。
売買目的有価証券は短期売買が前提であるため、時価評価を行い、評価差額を当期損益に反映する。
その他有価証券は一律に定義することが難しく、時価評価を行うものの、評価差額を当期損益にはせず、純資産の部に計上することで財務報告の適正性を確保する。
【ポイント】
有価証券の評価方法は、それぞれの目的に応じて、財務報告の適正性を確保するために異なる基準が適用されます。
- 満期保有目的の債券や子会社・関連会社株式は、売却が目的ではないため、時価の変動を財務成績の成果とはみなさず、取得原価で評価します。
- 売買目的有価証券は、短期間の売買を前提としているため、財務成績の評価に直結し、時価で評価し、評価差額を損益に反映します。
- その他有価証券は、投資目的が多様であり、一律に扱えないため、時価評価を行うものの、評価差額は純資産の部に計上することで、財務諸表の適正性を確保します。
これにより、財務情報の透明性を高め、企業の資産状況や収益状況を正しく示すことが可能となります。建設業においても、余剰資金の運用や事業提携のための株式取得が行われるため、適切な評価方法を理解し、適用することが重要です。