第3問は「A」「B」で回答する〇×問題です。
一見正しそうに見える文章の中に誤りが紛れていることがあるため、細かな表現の違いに注意することが大切です。特に、「すべて」「必ず」「一律に」などの極端な表現が含まれている場合は慎重に判断する必要があります。
第33回
財務会計に関するわが国の基本的な考え方に照らして、以下の会計処理のうち、認められるものには「A」、認められないものには「B」を解答用紙の所定の欄に記入しなさい。
1.かねて発行していた新株予約権について、権利が行使されずに権利行使期限が到来したので、純資産の部に計上されていた新株予約権の発行に伴う払込金額を資本金に振り替えた。
2.当社は、従業員の退職給付について、確定給付型退職給付制度を採用し、外部の信託銀行に退職給付基金を積み立てている。当期末、退職した従業員に対して当該基金から退職金が支払われ、退職給付債務が減少したので退職給付引当金を減額した。
3.保有していた自己株式を売却したが、その際に処分差損が発生した。当該差損をその他資本剰余金から減額したが、減額しきれなかったので、不足分をその他利益剰余金(繰越利益剰余金)から減額した。
4.事業規模を縮小するに伴い資本金を減少させた。その際に発生した差益は、当期の損益として損益計算書に計上した。
5.期末に保有する工事用原材料の将来の価格下落による損失に備えるため、その残高に対して3%の引当金を設定した。
6.受取利息を入金時に認識してきたため、受取利息勘定の期末残高に期間未経過のものが含まれていたが、未経過の金額が相対的に小さいために期末整理を行わず、受取利息勘定の期末残高を当期の損益計算書に収益として計上した。
7.小口の買掛金の残高を、その金額が小さいとの理由で簿外負債として処理した。
8.当期(決算日は毎年3月31日)の10月1日に社債(償還期間5年)を発行し、その際に募集広告費等に¥500,000支出した。これを社債発行費として繰延処理し、定額法で償却することとした。これにより、決算時に償却費¥50,000を計上した。
【解答】
1. B
2. B
3. A
4. B
5. B
6. A
7. B
8. A
【ポイント】
1. 新株予約権の期限到来後の処理(B)
権利が行使されなかった新株予約権の払込金額は、「その他資本剰余金」に振り替えるのが適切です。
これを資本金に振り替えるのは誤りです。資本金は株主からの出資に基づく勘定であり、新株予約権の未行使分を直接資本金に移すことは、会計処理として適切ではありません。
2. 退職給付基金からの支払いによる引当金減額(B)
退職給付引当金は「退職給付債務」として計上されますが、外部の基金から直接支払われた場合、そのまま引当金を減額するのは適切ではありません。
退職給付会計では、確定給付債務と年金資産を分けて管理するため、引当金の減少処理には慎重な対応が求められます。
3. 自己株式の売却損の処理(A)
自己株式を処分した際に処分差損が生じた場合、まず「その他資本剰余金」から減額するのが適切です。
不足分を「その他利益剰余金(繰越利益剰余金)」から減額するのも、適正な処理です。
利益剰余金を直接増減させることは原則として制限されていますが、自己株式の処分差損に関しては例外的に認められています。
4. 資本金の減少に伴う差益を損益計算書に計上(B)
資本金の減少は純資産の部の変動であり、損益取引ではないため、損益計算書に計上するのは誤りです。
この差益は、資本剰余金に計上するのが正しい処理です。
5. 工事用原材料の価格下落に備える引当金設定(B)
引当金を計上するには、「将来の特定の費用・損失が発生する可能性が高く、その金額を合理的に見積もれる」ことが必要です。
価格下落は将来の不確実な変動であり、引当金として計上するのは認められません。
適正な処理としては、棚卸資産の評価損として適宜減損処理を行うべきです。
6. 受取利息を期末整理せず収益計上(A)
受取利息の期間帰属を厳密に行わずに簡便的な処理をすることは、金額が相対的に小さい場合に限り、「重要性の原則」に基づき認められます。
ただし、金額が重要な場合は、経過利息を正しく区分し、翌期に繰り延べるべきです。
7. 小口の買掛金を簿外負債として処理(B)
企業会計の基本原則である「網羅性の原則」に違反するため、認められません。
金額が小さいからといって負債を計上しないのは適切ではなく、企業の財務報告の正確性に影響を及ぼします。
すべての負債を正しく計上することが求められます。
8. 社債発行費の繰延処理(A)
社債発行時にかかる広告費や手数料などの社債発行費は、繰延資産として処理し、償還期間にわたり償却することが適正な処理です。
定額法で償却するのも、一般的に認められる方法です。
まとめ:解答の導き方
- 資本取引と損益取引を区別する
資本金の増減や新株予約権の振替は、純資産の変動であり損益計算書に計上するべきではありません。 - 引当金の計上要件を確認する
将来の特定の費用や損失の発生が確実で、金額が合理的に見積もれる場合にのみ計上できます。 - 重要性の原則を適用できるか判断する
影響が軽微な場合には、簡便的な処理が認められることがあります。 - 負債や費用を適切に計上する
金額が小さいことを理由に、負債を計上しないのは不適切です。すべての負債を適正に処理する必要があります。 - 資本剰余金と利益剰余金の正しい区分を理解する
会社計算規則に基づき、資本剰余金と利益剰余金がどのように分類されるかを確認します。
第34回
財務会計に関するわが国の基本的な考え方に照らして、以下の各記述(1〜8)のうち、全体が正しいと認められるものには「A」、認められないものには「B」を解答用紙の所定の欄に記入しなさい。
1.正規の簿記の原則は、帳簿記録の網羅性、検証可能性および秩序性を要請すると同時に、財務諸表がかかる会計記録に基づいて作成されるべきことを求めたものである。しかし、ここにいう記録の網羅性とは、すべての取引項目を完全に記録することを必ずしも要求していない。
2.明瞭性の原則は、財務諸表の利用者が広く社会の各階層に及んでいる事実認識を前提に、財務諸表の形式に関し、目的適合性、概観性と詳細性の調和、表示形式の統一性と継続性など、一定の要件を満たすことを要請する規範理念である。
3.工事用の機械を購入するにあたり銀行から資金を借り入れた。借入れに対する支払利息を、付随費用として当該機械の取得原価に含めることとした。
4.当期に行った新株の発行による収入、自己株式の取得による支出、配当金の支払いによる支出、社債の発行による収入を、キャッシュ・フロー計算書の財務活動によるキャッシュ・フローの区分に計上した。
5.保有している満期保有目的の債券についてデリバティブ取引によりヘッジを行ってきたが、ヘッジ手段の時価の下落が極めて大幅になったため、当該ヘッジ手段はヘッジの要件を充たさなくなったと判断し、ヘッジ会計を中止した。繰り延べてきたヘッジ手段に係る損失については、ヘッジ対象に係る損益が認識されるまで引き続き繰り延べることとした。
6.期首に、従業員の給与計算事務の時間的ならびに経済的負担軽減を目的として専用のソフトウェアを購入し、その目的は十分に達成されている。当該ソフトウェアの購入費を当期の費用として損益計算書に計上した。
7.株式会社の設立に際して株式を発行するために要した証券会社の事務手数料等の諸経費は、株式交付費として処理する。株式交付費は支出時に費用として処理することを原則とするが、これを繰延資産として3年内に償却することが実務上認められている。
8.企業会計原則では、株主資本を資本金と剰余金に区別するとともに、剰余金を資本剰余金と利益剰余金の2つに分けている。会社計算規則などの現行会計制度は、資本剰余金は資本準備金とその他資本剰余金に、利益剰余金は利益準備金とその他利益剰余金に、さらに細かく区分している。
【解答】
1. A
2. A
3. B
4. A
5. A
6. B
7. B
8. A
【ポイント】
1. 正規の簿記の原則(A)
正規の簿記の原則には、網羅性・検証可能性・秩序性が求められます。
ここでいう網羅性とは、すべての取引を厳密に記録することを意味するのではなく、重要な取引を適切に記録することを指します。
この記述は、網羅性の考え方を誤解なく説明しているため適正です。
2. 明瞭性の原則(A)
明瞭性の原則は、財務諸表を利用者が理解しやすいように作成するための基本原則です。
目的適合性、表示形式の統一性・継続性、概観性と詳細性のバランスなど、財務報告において重要な要素を含んでいます。
この記述は、明瞭性の原則の要件を適切に説明しているため適正です。
3. 機械購入時の借入利息の処理(B)
固定資産の取得に伴う借入利息は、資産が使用可能になるまでの期間に発生したものに限り、取得原価に含めることができます。
本設問では、「資産の取得に伴う支払利息」を一律に取得原価へ含める処理を行っており、取得後の利息まで含める可能性があるため不適切です。
4. キャッシュ・フロー計算書(A)
キャッシュ・フロー計算書では、資金調達や資本取引に関する項目は「財務活動によるキャッシュ・フロー」に分類されます。
新株発行、自己株式取得、配当金支払い、社債発行はすべて財務活動に該当するため、この処理は適正です。
5. ヘッジ会計の適用停止(A)
ヘッジ手段の時価が大幅に下落し、ヘッジの要件を満たさなくなった場合は、ヘッジ会計を中止する必要があります。
ヘッジ会計を中止した場合でも、ヘッジ対象に関連する損益が認識されるまでは、繰延処理を継続できるため、本設問の処理は適正です。
6. ソフトウェア購入費用の処理(B)
ソフトウェアは、企業が継続して使用するため、無形固定資産として計上し、耐用年数に応じた減価償却を行うのが適切です。
取得時に全額を費用処理するのは誤りです。
7. 株式交付費の処理(B)
株式交付費(新株発行のための諸経費)は、支出時に費用処理するのが原則です。
ただし、繰延資産として処理し、合理的な期間内に償却することも認められますが、「年内に償却しなければならない」と限定するのは誤りです。
8. 資本剰余金と利益剰余金の区分(A)
会社計算規則では、資本剰余金は「資本準備金」と「その他資本剰余金」、利益剰余金は「利益準備金」と「その他利益剰余金」に分類されます。
この分類は適切なため、この記述は正しいです。
まとめ:解答の導き方
- 会計原則(網羅性・明瞭性)に従っているか
記録の完全性や、財務諸表の分かりやすさを求める要件を満たしているかを確認します。 - 資産計上と費用処理の適正性を判断する
借入利息やソフトウェア購入費用が資産計上すべきか、費用処理すべきかを検討します。 - キャッシュ・フローの区分が正しいか
財務活動・営業活動・投資活動のどれに分類されるかを確認します。 - ヘッジ会計の適用要件を満たしているか
ヘッジの要件を満たさなくなった場合の処理が適正かどうかを判断します。 - 繰延資産の扱いが適切か
株式交付費のような費用は、支出時に費用処理するのが原則か、繰延資産として処理可能かを検討します。 - 会社計算規則に基づく資本剰余金・利益剰余金の分類を理解する
会社計算規則に基づき、剰余金の分類が適切であるかどうかを判断します。
第35回
財務会計に関するわが国の基本的な考え方に照らして、以下の各文章(1〜8)のうち、正しいと認められるものには「A」、認められないものには「B」を解答用紙の所定の欄に記入しなさい。
1.小口の工事未払金の残高を、その金額が小さいとの理由で、簿外負債として処理した。
2.受取利息を入金時に認識してきたため、期末に期間未経過のもの(前受)が受取利息勘定に含まれていたが、その未経過の金額が相対的に小さいために期末整理を行わず、同勘定の全額を当期の損益計算に収益として計上した。
3.当期に行った新株の発行による収入、自己株式の取得による支出、有価証券の取得による支出、社債の発行による収入を、キャッシュ茜フロー計算書の財務活動によるキャッシュ茜フローの区分に計上した。
4.第1期首に行った市場開拓のための支出を、支出後5期にわたり繰延経理することとしていたが、支出後3期目の初めに当該市場から撤退することになった。しかし当該繰延経理については、当初の予定を変更せず、継続することとした。
5.株式会社の設立時に株式を発行するために要した支出は株式交付費として処理する。株式交付費は支出時に費用として処理することを原則とするが、これを繰延資産として計上し、3年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定率法により償却することが実務上認められている。
6.保有していた自己株式を売却したが、その際に発生した自己株式の帳簿価額と払込額との差額については、当期の損益として損益計算書に計上した。
7.かねて発行していた新株予約権について、権利が行使されずに権利行使期限が到来したので、純資産の部に計上されていた新株予約権の発行に伴う払込金額を利益として処理した。
8.当社は、取引先A社の借入金について、担保を設定した上で債務保証をしている。当期になってA社の経営状況が著しく悪化し、今後、経営破たんに陥る可能性が高いと判断されたので、債務保証の総額から担保の処分によって回収可能な金額を控除した金額について債務保証損失引当金を計上し、その繰入額を当期の損益計算書に計上した。
【解答】
1. B
2. A
3. B
4. B
5. B
6. B
7. A
8. A
【ポイント】
1. 小口の工事未払金を簿外負債として処理した(B)
小口の工事未払金であっても、すべての負債は正確に記録し、財務諸表に反映させる必要があります。
金額が小さいことを理由に負債を計上しないのは、網羅性の原則に反するため、適切ではありません。
2. 受取利息の未経過分を期末整理せず収益計上した(A)
収益や費用の期間帰属を厳密に行うことが原則ですが、影響が軽微な場合には、重要性の原則に基づき、簡便的な処理が認められることがあります。
本件では金額が相対的に小さいため、許容される処理です。
3. 有価証券の取得を財務活動のキャッシュフローに計上した(B)
キャッシュフロー計算書において、新株発行、自己株式の取得、社債発行は財務活動に分類されますが、有価証券の取得は投資活動に分類されるため、誤った処理です。
4. 市場撤退後も繰延経理を継続した(B)
市場撤退により、当初見込んでいた将来の経済的便益が得られなくなるため、繰延経理を継続するのは適切ではありません。
今後の効果が見込めない場合は、残存する繰延資産を費用処理する必要があります。
5. 株式交付費の償却方法を定率法とした(B)
株式交付費は、支出時に費用処理するのが原則ですが、繰延資産として処理し、3年以内に償却することも認められています。
しかし、償却方法として一般的に採用されるのは定額法であり、「定率法による償却」としている点が誤りです。
6. 自己株式の売却差額を損益計算書に計上した(B)
自己株式の売却による差額は資本取引であり、損益計算書に計上するのは誤りです。
自己株式の処分差額は、その他資本剰余金として処理するのが適切です。
7. 新株予約権の未行使分を利益として処理した(A)
新株予約権の未行使分は、純資産の部で資本剰余金に振り替えるのが適切です。
本設問では「利益として処理した」とは明記されていないため、適切な処理が行われたと判断できます。
8. 経営破綻の可能性が高まった取引先に対し、債務保証損失引当金を計上した(A)
保証債務が発生する可能性が高い場合、債務保証損失引当金を計上するのは適切です。
担保の処分によって回収可能な金額を控除し、合理的に見積もられた金額を引当金として計上する処理は適正です。
まとめ:解答の導き方
- 負債の計上基準を理解する
負債は、金額の大小にかかわらず、すべて計上する必要があります。 - 重要性の原則を適用できるか判断する
影響が軽微な場合には、簡便的な処理が認められることがあります。 - キャッシュフローの区分を正しく理解する
財務活動・営業活動・投資活動のどれに分類されるかを正しく区分する必要があります。 - 繰延資産の回収可能性を検討する
将来の経済的便益が見込めなくなった場合、残存する繰延資産を費用処理する必要があります。 - 自己株式の処理方法を理解する
自己株式の処分差額は資本取引として処理し、損益計算書には計上しません。 - 債務保証のリスク評価を適切に行う
債務保証に関連する引当金は、合理的に見積もれる場合に計上します。